一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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今日のことば(103) ― 鶴見和子

2006-03-01 10:16:01 | Quotation
「マートンの図式と比べてみると、抵抗の類型として、反抗主義が、柳田*の著作の中には見られない。それは、日本の抵抗伝統の中に、反抗主義―革命伝統―が欠落しているということではない。むしろわたしは、柳田が、自分の守備範囲を、常民と日常性とに限定していたことからきていると考える。柳田は、ハレの場の抵抗よりも、そしてエリートによる抵抗よりもむしろ、ケの場の、そして大多数の常民が実際に日常生活の中で、これまでおこなってきた抵抗の原型をとりだそうとしたのである。そして、儀礼主義および隠遁主義が日本の常民の抵抗の原型であることを示したのである。」
(「社会変動のパラダイム」)
*柳田:柳田國男(→「今日のことば(21)」参照)

鶴見和子(つるみ・かずこ、1918 - )
社会学者。戦前期の政治家鶴見祐輔(つるみ・ゆうすけ、1885 - 1973) の子、評論家鶴見俊輔(つるみ・しゅんすけ、1922 - ) の姉。戦前・戦後にアメリカに留学、比較常民学の立場から日本土着の社会変動について研究。1969(昭和44)から長らく上智大学教授をつとめた。1995(平成7)年に南方熊楠賞、1999(平成11)年に朝日賞を受賞。一方、1995(平成7)年には脳出血で倒れ、左半身麻痺になりながらも、強靭な意志力で驚くべき回生を成し遂げ、 その過程で歌人としても名をなしている。

マートン(Robert King Merton, 1910 - 2003。アメリカの社会学者) の図式とは、「社会規範に対する個人の反応のタイプ」を5つに分類したもの。

(1)「同調」(価値においても、それを達成すべき制度化された手段においても同調)
(2)「革新」(価値において同調、制度化された手段において同調せず)
(3)「儀礼主義」(価値において同調せず、制度化された手段においてものみ同調)(4)「逃避(隠遁)主義」(価値においても、制度化された手段においても同調しない」
(5)「反抗」(戦って、価値においても、制度化された手段においても同調しない」

柳田は、「山人」(=先住民)がたどった「絶滅」への道筋を6つに分類している。
鶴見は、この柳田の分類をマートンのそれと合わせて考え合わせている。

特に、今問題にしたいのは「信仰」について。
柳田は、
「式内(延喜式)の古社が殆ど其名を喪失したやうに、力(つと)めてこの統一の勢力に迎合したらしいが、之と同時に農民の保守趣味から、新たな社の祭式信仰をも自分の兼て持つものに引付けた場合が少なくは無かったらしい。」(『山の人生』)
と述べている。
つまりは、マートン分類の「儀礼主義」を採ったわけである。

鶴見は、それを、
「おなじ『神道』という名でよばれながら、民間信仰としての神道は、国家神道とは内容が異なることを明快に指摘し、民間信仰としての神道を究めることに賭けた」
のが柳田民俗学の功績であるとする。

これは「神道」だけではなく、新しい考え方が、この列島に入ったきた際に、どのような変容を被るか、という問題にもつながってくるようだ(「隠れキリシタン」におけるキリスト教の変容、民主主義の土着化、など)。

参考資料 鶴見和子、市井三郎編『思想の冒険』(筑摩書房)