一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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近代天皇制における権威と権力 その5

2006-03-09 07:11:29 | Essay
西周(1829 - 1897)

本来、徳川慶喜は、幕藩体制に代わる新政権構想を抱いていた。

オランダ留学帰りの西周(にし・あまね、1829 - 1897)をブレインとして立てられた構想(『議題腹稿』による)とは、
「慶喜は上院議長(一風斎註・諸大名による「上院」と、各藩1名の藩士による「下院」との二院制)と行政府の長を兼ねることになっている。大政奉還後に予定されていた諸侯会議が、慶喜を議長に選び、さらに新国家体制は旧幕府の行政機構を活用すると決めれば、議会制を加味した」(松浦玲『徳川慶喜』)
新政権である。

彼らの念頭にあったのは、ナポレオン3世による第2帝政(しかも初期の専制帝政)であろうが、実際に実現されれば、それよりも強力な「大君」職となるはずであった(行政府と立法府の長であり、最終的には全国の軍事統帥権まで握る構想)。

行政権:政府の首長は「大君」(大統領)と称し、官僚の任命、全国の行政権を行使する。また、藩政(地方自治体の政治)については、「議政院」(国会)で議決された法律に抵触しない限り、各藩(地方自治体)に任せる。

天皇権:天皇は「議政院」(国会)において議決された法律を追認する。朝廷警備軍(近衛師団)は「大君」直領及び各藩から石高に応じて一定人数を割り当てて編成し、士官以上は政府より派遣する。また、武器携帯者は天皇の直領である山城国(京都府内)への入国を禁止する。

立法権:立法機関として上下両院から成る「議政院」(国会)を設置し、法律・予算の議定、外交・和戦等の重要案件を協議する。上院は大名、下院は各藩一名ずつの藩士によって構成する。上院議長は「大君」の兼任とし、両院会議において決定しない案件の裁決権と、下院の解散権を有する。

軍事権:軍事権は当面の期間、諸大名に任せる。ただし、情勢が安定した後は、政府が全国の軍事権を接収統轄し、軍事統帥権は「大君」に帰すものとする。

このような政権構想を抱いての、1867(慶応3)年11月9日(旧暦10月14日)の大政奉還だったわけである。