一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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今日のことば(101) ― A. T. マハン

2006-02-27 07:28:41 | Quotation
「大海軍の建造がまずアメリカにとって重要だ、二番目には世界各地に植民地を獲得する必要がある。三番目には、そのために海軍が世界各地に軍事基地を設けなければならない。それを踏まえてアメリカは世界貿易に雄飛すべきであり、その対象はとりわけて中国市場に目を向けなければならない。」
(『海上権力史論』)

A. T. マハン (Alfred Thayer Mahan, 1840 - 1914)
父親の意思で、セント・ジェームズ神学校からコロンビア大学に学び、宗教者としての教育を受ける。しかし、1856年にアナポリス海軍兵学校へ入学、2番の成績で卒業する。その後、海軍兵学校の教官や艦長などを歴任、海軍大学校の校長もつとめる。

『海上権力史論』(原題 "The Influence of Sea Power upon History, 1660-1783" 『海の支配力(シー・パワー)の歴史に及ぼす影響』) は、海軍大学校での講義をまとめたもので、1890年の刊行。

マハンからは、秋山真之(あきやま・さねゆき、1868 - 1918)がアメリカ留学当時に影響を受けたと言われるが、現在、本書は「主力艦(戦艦)の過大評価、固定観念化」として、ほとんど、その有効性を失っている。
けれども、19世紀後半のアメリカの戦略を考える場合には、史料としての価値がある。
特に、日本の開国に当り、ペリー艦隊にどのような意図があったのかを知る上では、避けて通れないであろう。

まず、考えねばならないのは、当時のアメリカの最大の関心は、中国市場の開拓であり、日本は、石炭・水・食糧などの供給地として必要と見られていたということである(ペリー艦隊が、最短の太平洋横断ルートではなく、大西洋―インド洋経由で日本へやって来たことを想起せよ。当時、太平洋には燃料・物資の補給基地がなかったのである)。

その上で、幕末当時、日本が欧米列強によって植民地化される可能性を考えるべきであろう。
当時の人びとの主観を、今日のわれわれが踏襲する必要はないのである(アヘン戦争のショックによる危機感が、過剰な被害者意識を生み、それが東アジア諸国への侵略につながったのではないのか)。

参考資料  アルフレッド・T.マハン著、 井伊順彦訳、戸高一成監訳 『マハン海軍戦略』(中央公論新社)