一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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松浦玲の『新選組』を読む。

2006-02-06 08:46:43 | Book Review
フィクションの中の新選組といえば、古くは時代劇の「悪役集団」(無声映画時代には「勤王派」=正義。新選組は「幕府の爪牙となって、それら勤王派の志士を弾圧する集団」とされていた)。
それが「敵役集団」くらいまで引き上げられたのは、おそらく大佛次郎の『鞍馬天狗』シリーズを画期とするだろう(「敵ながら、それなりに評価する」という立場)。

それが完全に主役に躍り出たのは、司馬遼太郎の一連の作品(『新選組血風録』『燃えよ剣』など)と、それを原作にしたTVドラマが放映された、1960~70年代のこと。

けれども、それ以降、今度は逆に司馬遼太郎のフィクションに引きずられて、真実の新選組像が見え難くなっている。
おそらく「江戸幕府へ最後まで忠誠を尽くした悲劇の集団」というのが、新鮮組像の最大公約数ではないだろうか。
――もう1つ付け加えるとすれば、司馬が描いた「組織づくりの名人」としての土方歳三というキャラクターもある。
陳舜臣は、文庫版『燃えよ剣』の解説で、
「局長機関説とでもいうべき、近代的なセンスで運営されたのだから、オーガナイザーの土方歳三こそ『烈丈夫』のトップにおかれねばならない。」
と主張している。

以上のような新選組評価を、近藤勇書簡の読み解きによって、再度書き直したのが、本書の最大の特徴。
「手紙を書く近藤勇と、彼を首領として推戴する新選組の全体、それを幕末史の大きな流れの中に正確に位置づけ」
る、というのが本書でのテーマなのである。
ともすると、人物に力点を置くあまりに、「幕末史の大きな流れの中」での位置づけができていない、従来の類書への批判でもあろうか。

まず、著者は、新選組を、彼らが最初に応募した「浪士組」の名目「尽忠報国=尊王攘夷」を奉ずる、
「攘夷目的の有志集団、思想的結社」
と位置づける。
決して「剣」のみに生きる「武装/暴力集団」ではないのである。

その位置づけから、「幕末史の大きな流れの中」での新選組の各行動の意味が明らかになってくる。
つまりは、近藤の「攘夷観」が組織としての新選組を動かした最大の動因、という見解(これは、土方の「組織論」こそが新選組を動かした、という「司馬史観」とまっこうから対立する)。
その辺りが、著者が近藤勇書簡を重視する由縁であろう。

「有志集団、思想的結社」としての新選組像には、「目から鱗」とまでは言わないまでも、新鮮なものがある。
「司馬史観」に賛成する向きも、そうでない方も、一読されると、改めて気づかされる点が多いであろう。

松浦玲
『新選組』
岩波新書
定価:本体740円(税別)
ISBN4004308550