一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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ナショナリズムの応用問題 その5

2006-02-11 02:38:33 | Opinion
チャールズ・ワーグマンの描いた「生麦事件」

幕末期における最大のナショナリズム理論は「尊王攘夷論」であろう。
黒船ショックという外圧によって、対抗ナショナリズムとしての「尊王攘夷論」が生まれたのは、言うまでもない。

まずは、「外人嫌い」("xenophobia") という感情を元にした「攘夷」論が生まれる。外国人(特に西欧諸国民)を武力をもって排斥すべし、という論である(「生麦事件」「東禅寺事件」などを想起)。
その背景には、アヘン戦争における中国の敗北という危機意識もあった。

「攘夷」論により、武士たちの帰属意識が変化した(「夷」に対する「自国」の意識)。
自らの属する「国」が「日本国」を指すという認識が、武士層でも一般的になったと言ってもよい。
「前近代になればもちろん府県はなくて国のみである。国と言えば薩摩国や長門国、また土佐国などを指した。(中略)幕臣が『国』という場合は三河国や武蔵国ではなくて徳川幕府を指すことが多い(中略)尊王攘夷の志士が『報国』と言う場合の『国』は出羽国や薩摩国ではない。もちろん徳川幕府でもない。日本国である。個々の国や幕府ではない日本国を指す場合には紛れないように『皇国』を使うことが多かった(中略)攘夷において個々の国だけ、あるいは幕府だけを守るということはありえない。外敵から日本国を守るのである。」(松浦玲『新選組』)

また、「日本」の発見は、「皇国優越論」というプライドの発見にもつながった。その根拠となるのが、他国にはない、太古以来万世一系を誇る「天皇」という存在だったのである。
「天照大神が皇孫に対し日本を統治することを命じ、その神勅によって、皇孫である天皇が、日本を統治するようになった。このような事実が神道の根本である。と闇斎は『大和小学』の中で主張している。その意味では、天照大神が皇孫に日本を統治するよう命じ、その結果天皇が国家を統治するあり方が、闇斎のいう神道の内実と解釈してよかろう。」(安蘇谷正彦『神道思想の形成』ぺりかん社)

この山崎闇斎の考え方(垂加神道)から、儒教的な要素を取り払ったものが、本居宣長の国学(復古神道)である。
「宣長も表面は垂加神道と自分の道が同一であることを認めていることになろう。しかし同時に、両者の決定的な違いも認めざるを得ないし、強調せざるを得ない。それは、まさに垂加神道などが、天照大神を中心とした日本の神々信仰と皇国優越論的思想あるいは日本精神を強調した説を唱道しながら、それらの学問が、純粋にその三点を実現し得なかったことにあると思われる。」(安蘇谷、前掲書)

この皇国の優越という認識は、武士層では、儒教的名分論と結びき、「尊王」*という考え方を鮮明にする。
*単に「天皇崇拝」という意識だけなら、徳川光圀時代の「前期水戸学」から存在していた。それを、徳川斉昭時代に、神道儒学一致の見地から「尊王攘夷」としたのが「後期水戸学」。


(続く)