一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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今日のことば(57) ― W. シェイクスピア

2005-12-18 10:29:38 | Quotation
「われわれは/夢と同じくはかない身、そしてわれらが小さき生は/眠りによって幕を閉じる。」
"We are such stuff/As dreams are made on, and our little life/Is rounded with a sleep."

(『テンペスト』)

W. シェイクスピア(William Shakespeare, 1564 - 1616)
イギリスの劇作家、詩人。経歴の必要もあるまい。

この『テンペスト』(1611 - 12) は、シェイクスピアの最後の作品で、この悲喜劇を書き上げた後、中部イングランドの故郷に戻り、幸せな余生を過ごしたという。

主人公は、かつてはミラノ大公だったプロスペロ。現在は、絶海の孤島に追放の生活を送っている。ヒロインは、彼の娘ミランダ。このほかに、人間以上の能力を備えた妖精エーリエル、人間以下の野蛮な怪物キャリバンが、島には住んでいる。
プロスペロは、自らを追放した弟のアントニオとナポリ王アロンゾに復讐しようと図るのだが……(ピーター・グリーナウェイ監督作品『プロスペロの本』が、『テンペスト』を元にしている。ちなみに映画音楽は、マイケル・ナイマンの担当)。

『テンペスト』というタイトルの由縁は、この作品冒頭で、プロスペロがエーリエルに命じて起こさせた大嵐から。

さて、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第17番には、『テンペスト』の名が付けられている。
とは言っても、これはベートーヴェン自身の命名ではなく、弟子のシントラーがこのピアノ・ソナタについて尋ねた時に、シェイクスピアの『テンペスト』を読むようにと答えられたことから。

とは言うものの、このピアノ・ソナタ、別に標題音楽ではないから、それを理解するのに、シェイクスピアの作品が役立つものではない(作品世界が似ているとも思えないしね)。
得てして、音楽作品につけられた名称というのは、そのようなもので、特に作曲者本人が付けたものでも、内容を表していることはめったにない。

まあ、それも当たり前の話で、音楽のように抽象的な藝術を、「ことば」で表現すること自体が、かなり無謀なこと。作曲者に、弟子なり聴衆なりの理解を助けてやろうという意図があるとしても、まずは効果があったためしはない。

やはり、音楽は音楽として、劇作品は劇作品として享受すればいいだけのこと。
劇を鑑賞するのは、今すぐは無理としても、エレーヌ・グリモーの演奏するピアノ・ソナタでも聴いてみましょうか("Credo", DG)。

参考資料 P. ミルワード著、安西徹雄訳『シェイクスピア劇の名台詞』(講談社)