一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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今日のことば(42) ―― S. ツヴァイク

2005-12-01 06:36:26 | Quotation
「戦争は一つの伝説であり、それがまさしく遠くにあることが、戦争を英雄的でロマンティックなものにしたのである。彼らは戦争を学校の教科書や、画廊の絵画のパースペクティヴで眺めていた。それは金ピカの軍服を着た騎兵のまばゆいばかりの突撃、いつも勇敢に心臓の真只中を射ちぬく致命的な弾丸であり、出征の全体が敵を粉砕する勝利の行進であった。(中略)ロマンティックなものへの足早な遠足、荒々しい男らしい冒険 ―― 一九一四年当時、戦争は単純な人々にこのように思い描かれていた。」
(『昨日の世界』)

S. ツヴァイク(Stefan Zweig, 1881 - 1942)
オーストリアの作家、評論家。裕福なユダヤ系商人の子として、ウィーンに生れる。哲学や独・仏文学を修めた後、叙情詩人として文学活動を始める。
第一次世界大戦中はスイスに亡命、ロマン・ローランと親交を結び、自由と平和のために発言した。戦後、『ジョゼフ・フーシェ』『マリー・アントワネット』『エラスムスの勝利と悲劇』などの伝記小説を次々に発表する。
ドイツでナチスが政権を握ると、1934年イギリスに亡命、その後1940年にはアメリカ、そしてブラジルに移る。1942年、未完の作品『バルザック』を残し、妻とともに自殺した。

「私が物語るのは、私の運命ではなくて、ひとつの世代全体の運命である」と語るツヴァイクの『昨日の世界』は、第一次世界大戦開始直後の民衆の動きだけではなく、多くの知識人の感情をも伝えている。

「この最初の群衆の出発には、なにか堂々たるもの、感動的なもの、そして魅惑的なものさえ含まれており、それから脱することは困難であった。(中略)幾千、幾十万の人びとは平和の時においてもっとも感じていなければならなかったこと、すなわち彼らは一つであるということを感じたのであった。」

「生まれながらの世界市民、現代のエラスムスをもって認ずる」ツヴァイクでさえ、戦争騒ぎの熱狂からは無縁でいられなかったのである。

さて、問題は1914年のドイツだけのことではない。
1894(明治27)年の、1904(明治37)年の、そして1941(昭和16)年の日本はどうであったか。

「身体の奥底から一挙に自分が新しいものになったような感動を受けた」(伊藤整)

「戦勝のニュース胸轟くを覚える。何という巨きな構想・構図であろう。アメリカやイギリスが急に小さく見えて来た。われわれのように絶対信頼できる皇軍を持った国民は幸せだ。」(青野季吉)

「戦争より恐ろしいのは平和である。……奴隷の平和より戦争を!」(亀井勝一郎)

さて、来る2006年の日本は、如何なるものか。

参考資料 シュテファン・ツヴァイク、原田義人訳『昨日の世界』(みすず書房)
     脇圭平『知識人と政治ードイツ・1914~1933ー』(岩波書店)