一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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今日のことば(51) ― H. ハイネ

2005-12-10 06:23:47 | Quotation
目下、なんという変化が、われわれの物の見方や考え方に起ろうとしていることか! 時間と空間という基本概念すら当てにならなくなった。鉄道により空間は殺され、われわれに残るは時間のみ」
(『ルテーツィア』)

H. ハイネ (Christian Johann Heinrich Heine , 1797 - 1856)
ドイツの詩人。デュッセルドルフのユダヤ系布地商の家に生まれる。1819年から1825年まで、ボンを初め、ゲッティンゲン、ベルリンの各大学で学生生活を送る。その間に文学に目覚め、1821年処女詩集を刊行、卒業後出版された『旅の絵 第1巻』で名声を博した。
フランスの7月革命(1830)に感激、「ぼくは革命の子だ」との意識の下に奮起するが、ドイツでの革命はならず、1831年にフランスに亡命する。
上記引用の『ルテーツィア』は、パリ時代のハイネの作品で、フランスの政治・藝術・民衆生活について書いたもの。

「鉄道」は、他の産業革命の産物と同様、システムとして存在している。
そこには、普通「鉄道」として考えられるハード面だけではなく、順調に運行させるために必要なソフトのシステムがある。
たとえば、ダイアグラム、安全性確保のための保守点検整備、距離と時間と重量に関係させた料金体系、などなど。

その中で、もっと大きな影響を社会に与えたのが,「時間」の観念ではないだろうか。
ハイネが語っているような、移動に必要な「時間」が急激に短縮されたことだけではなく、定時運行に伴う「時間/時刻」の考え方も変化した。
今までは、「朝昼夜」程度の大ざっぱな「時間」の切り取り方は、「時分」による正確なものに変らざるを得なくなる。
鉄道は、そこに働く人びとのみならず、乗客にも「時刻」の観念を強いることになる(「時刻」を守らなければ、目指す列車に乗れないのだ!)。

それを証拠づけるのが、時計の普及で、1890年代にはアメリカン・ウォッチ・カンパニー ウォルサム工場の生産量は、年間100万個に達したのである。

参考資料 ハイネ著、井上正蔵ほか訳『ハイネ 世界文学大系78』(筑摩書房)