一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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今日のことば(63) ― 島崎藤村

2005-12-26 10:20:40 | Quotation
「深思するかの如く洋琴の前に腰掛け、特色のある広い額の横顔を見せた、北部の仏蘭西人の中によく見るやうな素朴な感じのする風采の音楽家がバルドオ婦人の伴奏として、丁度三味線で上方唄の合の手でも弾くやうに静かに、非常に渋いサッゼスチイヴな調子の音を出し始めました。この人がドビュッシイでした。」
(「音楽会の夜、其の他」)

島崎藤村(しまざき・とうそん、1872 - 1943)
詩人、小説家。藤村が姪との恋愛事件を起こし、逃避するかのようにフランスに渡ったのは、1913(大正2)年のこと。藤村、41歳であった。
ドビュッシー(1862 - 1918) は森鴎外 (1862 - 1922) と同年生れだから、藤村より10歳年上ということになる。

藤村は、1896(明治29)年頃からヴァイオリンの稽古を始め、1898(明治31)年には高等師範学校付属音楽学校(東京音楽学校の当時の名称)選科に入学、ピアノを習うほど、西欧音楽に興味関心を抱いていた。
この西欧音楽への愛好は、パリ滞在時代も変わりなく続き、ドビュッシー(『子供の領分』を殊に好んだ)のほか、フォレの作品、イザイのヴァイオリンなどを音楽会で聴いている。

「私の心は今、しきりに音楽を渇き求めて居る。生そのものゝ音楽を求めて居る――文学の中にも、絵画の中にも」
と「音楽を求むる心」という文章に記したのは、渡仏前の藤村であった。

参考資料 中村洪介『西洋の音、日本の耳――近代日本文学と西洋音楽』(春秋社)
     『島崎藤村全集』(筑摩書房)