一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
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今日のことば(66) ― A. ルシエ

2005-12-29 07:36:56 | Quotation
「これは人々が小さな子供のときに、海辺で貝殻を拾い上げて耳にあて、海の音を聴いた、そんな体験の延長にほかならないのです。人々はそこでやめてしまいます。大きくなるとそんなことはしなくなってしまうのです。人々はほかのいろんなこと、どうやって生計を立てるか、とか、いかに人に話をし、言葉でコミュニケーションするか、というようなことを考えるようになり、耳はそんなことをやめてしまうのです。私がしようとしているのは、人々が再び貝殻を拾い上げて耳にあて、海の音を聴くのをお手伝いすることだと思うのです。」
("Chambers")

A. ルシエ(Alvin Lucier, 1931 - )
現代アメリカの作曲家。しかし、従来の作曲家とは異なり、この "Chambers" (1968) という作品は、
奏者たちがトンネルや地下鉄の駅などの環境や貝殻、壜などの道具を利用して、ありとあらゆる音の反響が得られる状況を作り出し、思い思いの音を出しながら、それらのさまざまな響き合いを鑑賞しようとする」(渡辺裕『聴衆の誕生―ポスト・モダン時代の音楽文化』
ものである。
つまりは、「音」という振動現象に焦点を当てたインスタレーション作品(サウンド・アート)といってもよい。
上記引用は、その作品に関連して A. ルシエが述べたもの。
現在,ウェズリアン(Wesleyan)大学教授。

このような作品が生まれた背景については、前記渡辺裕の著書が詳しい。
ここで一言だけ付け加えるならば、藝術を〈鑑賞〉するのではなく、あたかも自然の一部のように〈観照〉するという態度は、われわれ東北アジアの人間にとっては、さほど縁遠いことではないのだ。

音楽だけをとって見ても、その楽器には、すでに自然の音を思わせるような〈雑音成分〉が含まれているし(尺八における〈風韻〉)、〈水琴窟〉や〈鹿おどし(添水)〉のような音響インスタレーションがあったのである。