冷たい風のような火

メモ書きですが、それにしても何で公開の場で書くんでしょうね。

長沢背稜から雲取山、飛龍山の縦走 1

2018-05-02 20:56:12 | 旅行
GWの山行は、例年より新緑の早い奥多摩~奥秩父の山を縦走して楽しむことにしました。奥多摩は東京に住んでいる私にとってはホームフィールドですが、幾つか未挑戦のルートがあります。中でも今回は玄人っぽいルートというか、前々から気になっていたマイナーで静かな稜線を選びました。東京都と埼玉県の境である長沢背稜という尾根道です。ここは避難小屋はあるものの営業小屋やテント場はありません。初の避難小屋泊体験もしてきました。なお、2泊目は雲取山荘のテント場にテントを張る予定。

今回の山行には幾つかのテーマがあります。
1. 新緑: 今年は残雪が少なく気温の上昇も早いので、お花も新緑も例年より2週間くらい早いイメージ。そんな状況なので、GWの奥多摩は新緑が楽しめます。特に、今回は飛龍山からの下山時に天平(てんでいろ)尾根という広葉樹の原生林を通る計画にしたので、期待が大きかったです。


2.今シーズン終盤となった春のお花: 今年はこれまでの年よりも多くの春のお花を見ることができましたが、奥多摩に咲く花の中にはまだ幾つかとても興味はあるのに見たことのないものがあり、それを見たいと思っていました。


3.長沢背稜: 人の少ない道ということで、難しい道というイメージがありました。奥多摩をよりよく知るためにもここを歩く経験は不可欠なので、日も長いし人出も比較的多くて安心できるこのタイミングで挑戦しました。


4.雲取山からの眺望: 前回は2014年の9月に登っていますが、この時は雲が多くて山頂からの眺望は今一つ。せっかくの東京都最高峰からの眺めは期待したいところです。ご来光も同時に期待。


5.飛龍山: 雲取山の隣にあり標高も2,077mと雲取山の2,017mより高いですが、山頂が樹林に覆われていて眺望もなく、雲取山と違って日本百名山でもないという地味な存在(山梨百名山ではある)。しかし、奥秩父の主だった峰は数回に分けて制覇したいと思っているので、今回挑戦してきました。


さて、GW前半の3連休の天気はバッチリ晴れ予報。4月28日土曜日に今季初のテント泊装備約17キロを背負って出発です。まずは7時27分に奥多摩駅から東日原へ向かうバスに乗り込みます。そのためには自宅の最寄り駅を5時少し過ぎに出る電車に乗らねばならなかったわけで、結構眠いです。なお、登山者は多かったのですが、西東京バスが臨時便として川苔山方面へ向かう人には別のバスを出してくれたので、座ることができました。で、8時くらいに東日原のバス停に到着。ほとんどの人は鷹ノ巣山に向かいますが、私を含めてごく少数の人はここから一杯水の避難小屋を経て天目山方面に向かいます。


ここでちょっとアクシデント。バス停にある簡略化された地図では、登山口はバス停から少し先にあることになっているのですが、10分ほど歩いても見つからず。引き返して人に尋ねて、ようやく実際にはバス停手前に登山口があると知りました。まったく、ミスリーディングな表示は危険です。まあ、大事に至る前に引き返してよかった。ヤマレコでよく見る標識も出てきて、安心して登山開始です。


奥多摩の山の多くがそうであるように、最初の400~500mは杉を中心とした暗い植林帯の急坂を行きます。これが例によって厳しい。テント泊装備に加え、気温も結構高かったので汗は出るし息が上がる。覚悟していたものの修行のようなスタート。やがて、道の片側が広葉樹の自然林になると、明るさも増してきます。


そして、新緑はとても美しい。私は紅葉より新緑の方が好きです。




やがて植林帯の急坂が終わると、ヨコスズ尾根という自然林の緩やかな尾根に出ます。鷹ノ巣山の榧ノ木尾根に似た感じで、広葉樹の多いとても明るく歩きやすい尾根です。そして標高1,000mくらいのところにはブナの新緑。まだ葉が柔らかいのが分かる。




新緑の樹間から見えるのは川苔山ですかね。


足元を注意すると、スミレが何種類か見られました。フモトスミレやタチツボスミレなどに交じって、これはヒナスミレだと思うんだけど。これまではあまり見ることのなかった種類です。


さらにヨコスズ尾根を登り、標高が1,300mくらいになると新緑もやっと芽吹いたところという感じ。樹間からはこれから歩く長沢背稜が見えてきましたが、初めて歩くところなのでピークの名前を同定できない。


時々大きなブナの木が現れます。奥多摩は巨樹の地だ。


なお、ミズナラはまだほとんど新芽を出していませんでした。広葉樹でも少しずつタイミングが違うらしい。カエデ系とブナ系は早めなのかも。標高が上がるにつれて新緑が目立たなくなり、まだまだ冬のような装いの木も増えてきます。


と、ほぼコースタイム通りで一杯水の避難小屋に到着です。綺麗に清掃されていて快適に泊まれる様子でしたが、まだ早いので今回はもう少し先の酉谷避難小屋を目指します。


各避難小屋の近くには水場がありますが、事前リサーチでは水量は一定ではない模様でした。そのため、酉谷の水場が万一水量不足の場合に備え、一杯水で2リットルほど補給しておきます。一気に荷物が2キロも重くなりますが、水の確保を優先。これはリスク管理上しょうがない。水場は避難小屋から3~4分の場所にあり、この日は水量豊富でした。


さて、ここからは天目山の山頂を目指し、そこから長沢背稜に入ります。なお、実際には長沢背稜という名前はこの稜線のうち西側の方、具体的には雲取山の北方に位置する芋の木ドッケから酉谷山までを指すのが普通のようです。それより東は都県界尾根と呼ぶのが普通らしいですが、実際には同じ稜線なのでここでは長沢背稜で統一したいと思います。
ここでまたプチアクシデント。本来は避難小屋から天目山への直登ルートがあるのですが、なぜかこの時はピークを避ける巻き道を行ってしまいました。しばらく行くと巻き道と長沢背稜が合流するので、そこにザックをデポして空身で天目山の山頂との間をピストン。


無駄な行動のようでしたが、実際には山頂直下の急な所を大きなザックを担がずに済んだので楽だったかも。さて、11時10分くらいに天目山に登頂です。三ツドッケという別名の方が有名かもしれません。ちなみに、ドッケというのは尖った山頂を表す言葉のようです。マイナーなイメージの山ですが埼玉県の方からも登山道があるので渋めの山行を好む向きには結構知られているようで、山頂では数名の方が景色を楽しみながら昼食を取られていました。


山頂からは奥多摩の山々が見渡せます。よく行く大岳山と御前山も。写真だとうまく写っていないですが、実際には山肌が新緑の緑で綺麗です。


富士山も見えます。これを目当ての人も多いでしょうね。


これはこれから歩く方面。大きいのは雲取山の手前にある芋の木ドッケかな。


さて、三ツドッケを後にしていよいよ長沢背稜を歩きます。この標高では、木々はまだ多くは冬の状況でした。




ちょっとだけ芽が出ています。


足元で時々目立っていた葉っぱ。これはキバナノコマノツメかな。あるいはマイヅルソウか。いずれにしても、一斉に花が咲いたら結構な規模のお花畑になりそうでした。


11:45頃にチェックポイントのハナド岩に到着。


ハナド岩は、今回の山行で発見した2番目に素晴らしい展望台でした(トップは後ほど紹介)。ここからは登ってきたヨコスズ尾根と右手に見えるタワ尾根に囲まれた小川谷が眼下に広がります。正面は鷹ノ巣山が目立つ石尾根が連なり、その向こうに富士山という図式です。この小川谷ですが、植林は少ないようで広葉樹の自然林がとても目立ちます。写真ではうまく伝わりませんが、新緑が本当に美しく(恐らく秋には紅葉も同様に美しい)、感動的な景色でした。


少し視線を上げて長沢背稜とその先に見える雲取山を臨みます。写真中央のやや尖がった一番高い山が雲取山です。


雲取山拡大。山頂直下は少し急に見えますが、全体的にはなだらかな山容ですね。


そしてこれは雲取山から南東方向に延びる石尾根(奥の尾根)。手前はタワ尾根です。タワ尾根はもちろん、石尾根もこちらから見える側(北側)は広葉樹が多いようで、とても綺麗な色です。


ハナド岩に咲いていたアセビ。標高1,000mくらいのところだととっくに時期を終えたはずのアセビも稜線上には結構多くて、やはり環境が違うのだと思わせられます。


Googleのサービスでパノラマ化された写真。少しは全体の雰囲気が出ますかね。


30分近く大休止してお昼のパンを食べながら、ハナド岩からの景色を楽しみました。長沢背稜は山深い景色を見せてくれる道ですね。
さて、この日の予定ルートは残り1時間半くらいですが酉谷山の避難小屋を目指して再び長沢背稜を歩きます。オオカメノキやアカヤシオなど木の花が時々咲いていました。




アカヤシオはたぶん始めて見ました。奥多摩ではミツバツツジやヤマツツジが多いのですが、やや赤紫色の強いアカヤシオは比較的珍しいんじゃないかな。雰囲気的には、昨年谷川連峰で見たムラサキヤシオに近いです。






足元には引き続きスミレが多く、時々ツルキンバイが黄色くて可愛い姿を見せてくれます。これは斑入りのフモトスミレ。


長沢背稜の登山道ですが、これが意外なほど整備されていて安全でした。基本的に巻き道のため、無理して選ばなければ小ピークはかわすことができます。そのため体力的な負担も少なく、テント泊装備でも歩きやすかったです。確かに人は少ないので事故があった時には完全自己責任で助けは期待できませんが、道そのものはとてもよかったです。整備されている方々に感謝するとともに、これならもっと人が歩いてもいいのにと思いました。




途中、七跳山(ななはねやま)という素敵な名前のピークがあるので、ここは巻き道を外れてピークを目指しました。その直前に、今回の山行で狙っていた花を一輪だけですがついに発見。ヒゲネワチガイソウです。


白い小さな花ですが、オシベかな、小豆色っぽい赤が入ってとても可愛いです。この花は尾根に咲きますが、沢に咲く早春の花であるハナネコノメにちょっと似た雰囲気。昨年のヤマレコレポートなどではもっと咲いているように書かれていたのですが、今年は気候のせいかこのヒゲネワチガイソウはほとんど見つけられませんでした。白くて小さい花はカメラのピントが合わせにくいのですが、ザックを下ろして道に横たわって何とか撮りました。

あとは、七跳山への途中で見つけたこのスミレ。アオイスミレかと思うんだけど、確信ができず。


お花を探しつつ、七跳山に登頂。展望はないし山頂標識も簡単なものですが、素朴でいい感じ。


山頂を後にして登山道に戻ります。前方に見えてきたのが酉谷山ですかね(右)。左はタワ尾根の頭と呼ばれる滝谷ノ峰でしょう。


少し歩くと、ツルキンバイの大きなお花畑が登場です。これまでは基本的にちらほらとお花が道に沿って出てきていたのですが、ここは大群落。




ちょっと寄ってみるとこんな感じ。




大家族で可愛いです。




そして、その中にヒゲネワチガイソウも幾つか一緒に咲いていました。でも相変わらずピントが合わせづらくていい写真が少ない。




少しまとまって咲いているところもあります。




このお花畑で10分以上停滞。登山道は一人分の幅しかないのですが、他に歩いている人がいないので自由に使えます。長沢背稜、とてもいい。さて、お花畑を後にして再び歩き始めます。稜線は基本的に早春の雰囲気で、ヤマザクラが咲きはじめだったり新緑もやっと始まったところ。




2時になり、そろそろ目的地の避難小屋が近づいてきたはず。タワ尾根の頭もすぐ近くに見えるし。


この分岐の直下が避難小屋です。


で、2時10分頃に酉谷避難小屋に到着です。この日は私が最初の到着でした。GWなので混むと困ると思って早めに来ましたが、結局小屋の利用者は5名だったので、スペース的には余裕がありましった。


まずは水場をチェック。過去には愚か者によって破壊されたこともあるようで、水場は石や鉄製の覆いで補強されていました。水量は多く、安心です。ちなみに、味もよかったです。


小屋からは位置的に雲取山は見えません。正面は南東方向で、尖った鷹ノ巣山が一番目立ちます。


避難小屋はとてもよく整備・清掃されていました。こんな奥地で作業されている方に感謝ですね。トイレはバイオトイレで異臭もほとんどせず、快適でした。


ザックを下ろして整理していると、次の登山者が到着されました。70代の男性で、奥多摩の山々を歩きつくしているベテランでした。その後いらした壮年の男性も経験豊富な方で、バリエーションルートを楽しんでいるようでした。この方々からは翌日以降のルートについていろいろ教えていただきました。ありがとうございます。最後の二人はちょっと時間が経ってからやってきた学生さんでしたが、鳩ノ巣からずっと縦走してきたとのこと。距離的には私のこの日の山行の2倍くらいでしょうか。若い人の体力は凄い。
さて、日が長いので、私はこの日のうちに酉谷山の山頂を踏んでおこうと思って空身でピストンです。山頂は避難小屋から15分弱登ったところにあります。まだ葉の出ていないカラマツの林の中を登ります。


山頂到着。この日の最高点1,718mです。


そこそこの眺望があります。南東方面は奥多摩の山々。


北西方面に見えるのは雲取山から三峯方面に至る稜線でしょう。


北側には秩父の町が見えていました。秩父は山深いところに開けた盆地であることがよく分かる。


植生も、少しずつ苔が増えてきたりして奥多摩から奥秩父山塊に本格的に入っていくことが感じられます。


スミレも、これは今まで見てきたものとは葉の形が少し違うように思うけど、特定が難しい。


その後は避難小屋に戻り、ベテランの方にいろいろと教わりながら時間をつぶして5時ごろにいつもの早ゆでパスタとレトルトボロネーゼソースの夕食を取りました。他の方々はお酒も楽しんでいましたが、私はソロ山行の時はお酒は飲まないポリシーなので早めに就寝、翌日に備えました。
アルプスの稜線ももちろんいいですが、奥多摩や奥秩父の山深い、緑の多い景色もとても好きです。個人的には、癒しパワーは圧倒的に山深い、森深い山域の方が上だと思っています。特に新緑シーズンということで、この山域のベストシーズンを楽しむことができたと思っています。長くなってきたので、2日目以降の記録は次のエントリで。