学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

09.11.03.横浜Ⅰ

2009-11-03 21:18:59 | 展覧会感想
雲ひとつない青空の今日、横浜美術館で開催されている「大・開港展」を見てきました。横浜開港150周年、そして横浜美術館20周年を記念しての展覧会です。私は幕末から明治初期の美術がどうもうまくつかみきれません。時代の混沌とした世情が美にも及んでいるように見えて触れにくいのです。もやもやした気持ちを解消したい。そんな思いもあって、展覧会に足を運びました。

長くなりそうなので、展覧会の感想は2日間でご紹介します。今日は私が興味を持ったミニチュアの細工物と河鍋暁斎について書きます。

展覧会会場に入ってすぐに陶器と調度品といったミニチュアの細工物が展示されています。洋服のボタンくらいの大きさ。徳川将軍家が持っていたもので、とても小さくてかわいらしいものばかり。江戸末期になると、浮世絵もそうですけれども、人間技とは思えないような高い技術力の作品が多々見られるようになります。この細工物にも驚かされました。たとえ話として適切かどうかわかりませんけれども、「プラモデル」がありますね。あれは原寸を何分の一かに縮小して、組み立てて楽しむものです。日本人はとても好きです。モノを小さくして楽しむという気質、現在にもつながっているのかな、とふと思いました。

河鍋暁斎。圧巻でした。《蒙古賊船退治之図》は、あの鎌倉時代の蒙古襲来を画題とした木版画ですが、火薬の爆発した表現と、爆発によって吹き飛ばされる人やモノ。剃刀のような鋭い波。ドラマティック。また、遠くには炎に包まれる船も。私はおや、と思いました。実は河鍋暁斎にはこんなエピソードがあるんです。河鍋暁斎が青年時代、江戸で大きな火災が発生したそうです。普通怖くて逃げ惑うんですが、彼はこのときとばかりにその様子を熱心に写生していたとか。家が焼けるかもしれないのに何事かと親に随分怒られたそうですが、炎に包まれる船をリアルに描けたのは、その経験があったからなのかな、と思ったのです。同じく河鍋暁斎の《鯉魚遊泳図》は正面向きの鯉が目をひきます。この角度から描くのはなかなか難しい。自己鍛錬の積み重ねと、彼の自信が垣間見える絵でした。

「大・開港展」、河鍋暁斎をもっと知りたい方のために、下記の書籍をご紹介します。できれば一読してから展覧会をご覧頂きますと、より楽しめること間違いなしです!

●ジョサイア・コンドル著 山口静一訳『河鍋暁斎』 岩波文庫 2006年

明日は私のそもそもの目的である幕末から明治初期の美について、展覧会の全体を見ながら書いてみたいと思います。
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