不定形な文字が空を這う路地裏

夏の死体に埋もれて






膝までの深さの
泥水のプールに
君と潜ってはしゃいでいた
君と潜ってはしゃいでいた


僕たちは19歳で
怖いものなんか何もなかった
僕たちは無敵で
青春は永遠だった


薄曇りの八月に
あらゆる禁忌を犯したね
キンセンカの香りの中で
口には出来ないことばかり


僕たちは19歳で
怖いものなんか何もなかった
僕たちは無敵で
青春は永遠だった


ハシブトガラスが廃屋の窓ガラスの裂目から寝床を物色する夜
シュールレアリスティックピローの上で24色の虹を見て
目が回りそうだって君は言ったんだ
コメディ映画みたいに器用に黒目を操りながら


君は行ってしまった
どんなことをしても手の届かない奇妙な駅の改札を抜けて
さよならと手を振ることもせずに
こちらに背を向けて二度と振り返ることなく
僕は地面に落ちた団栗を戯れに口に含んで噛み
そのどうしようもない味に顔をしかめながら
確か一度しか聞いたことのない歌を口ずさんだ
メロディーは不安定で
心を暗くさせたけれど
それこそが僕の欲しいものだった


グラウンドのフェンスに絡まったつる草がいつしか変色して夏の死体になったとき
僕は19歳が死んだことを知った
シュールレアリスティックピローの上の虹は35色になっていたけど
すべての色の境目が不透明でそれはそれは冴えないものだった
誰もが寝静まった夜中、不意に目を覚ました僕は狂ったようにグラウンドを目指し
フェンスに絡まった夏の死体を片っ端からむしり取っては捨てていった
たまたまその時間に巡回に来た警備員に捕まって視界が半分になるほど殴られたけれど
たぶんそれこそが僕の欲しいものだった
夏の死体はバラバラ死体になって
それはもはや夏でも死体でもなかった
あらゆることはそんな風に終わってゆくのだ


いま僕は腫れた顔にいらつきながら
自室の窓の縁に顎を乗せて
家猫みたいに窓の外をずっと見ている
もうすぐ最初の雪が降るよとトランジスタラジオが告げて
空は曇っているけどキンとしている


19歳だった





19歳だったんだ

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