不定形な文字が空を這う路地裏

いつか、まあ、そのうち


ありのままの僕で居ることは恥ずかしいことだから
柔らかい花をたくさん摘んで
外壁のそばですべて枯らせた
美しいものたちがすべて藁のような色になって
崩れては風に乗って少しずつ消えて行ったよ
ママ、爪を切る時に肌を傷つけないように気をつけなさいとあれほど注意されたのに
いつだって血が滲んでしまうんだ
そんなことに悩んでいる時間なんかないから
爪切りをするときはいつでも時計が見えるところに居る
こないだ床の掃除をするために新しい箒と塵取りを買ったんだ
ナイロン製でとても使いやすいよ
コンセントの長さを気にする必要も無いし
それから無くなりかけている雑多な日用品を揃えに
一〇〇円の店とかホームセンターをいろいろうろついた
空は抽象画のようにライトブルーの単色で塗り潰されていて
信号待ちで世界なんてやっぱり全部嘘なのかもしれないとひとり納得した
バイクのガソリンはこの間入れたばかりだから
メーターはカッコよくフルを指していたよ
満タンのガソリンでどこに行くの
満タンのガソリンでなにをするの
古いロックソングみたいなフレーズが頭に浮かんだけど
まさかこんな詩でそいつを使うなんてね
白バイがいつだって周りをチョロチョロしてた
この街の白バイは全国的に有名な事件の主役さ
あの事件の時僕は実家に住んでいてね
直後にあの道を通ったんだ、白バイの破片が辺りに散乱していて
(へえ、白バイが随分派手に事故ったんだ、珍しいこともあるもんだね)と思った
まさかあんなに派手な事故になるなんて思わなかったけどね
いろいろな道にいろいろな思い出が落ちている
そのほとんどはろくなものじゃないけど
そんな思い出を数えていると結構生きてきたもんだと思う
普段はほとんどそんなこと気にもしないけれど
蝉の声がしないのが嘘みたいな暑い春
海まで突き抜けている道を街の方に走っていた
煉瓦造りのラブホテルの廃墟があって
今じゃいろいろなところからユーチューバーがそれを目指してやって来るあの道だよ
別にそんなところに買物に行く必要なんてなかったんだけど
走りたい道によって行く店が決まることってたまにあるじゃない
日常なんて一番空っぽな状態だよ
長い信号待ちの間にはそのまま
地球の裏側の辺りまで深い落とし穴に落ちるんじゃないかなんて気分になるよ
だから僕は詩を書く
だから僕は詩を書くんだ
亡霊のように漂っては充満する虚しさのために
信号が青になったらアクセルを吹かしてそのまま
行けるところまで行ってみたい衝動に駆られたりするけど
後ろのタイヤを新しくするまでは大人しくしているつもりなんだ
そろそろオイルも変えないといけないし
物事のほとんどには理由なんてないから
少し居心地のいい方を探しては選択していくのさ
生きる意味だのなんだののために言葉を費やす段階はもう終わったんだ
選んだものを続けるだけさ
そしていつだってまた新しいものを選べるように耳を立てておくんだ
道端で枯れた草が風に運ばれている
そのたびに僕は思い出すんだ
僕のために枯れた花たちのことを
いつのまにかすっかり居なくなっちまったあいつらのことを
音楽は流れ続けている
それが終わる夜のことなんて考えられない
ねえ君、誰も理由のために生きるべきではない
それは君の動力になり得る代わりに君を縛る鎖にもなる
顕微鏡のようなものだと考えて御覧
それだと君の見たいもの以外のすべては見ることなく終わってしまうわけさ
それにしても近頃はろくなドライバーが居ないね
何度も何度もすれすれで追い抜かれたんだ
あんな連中のせいでいつか怪我をするかもしれないなんて考えると
まったくこの世は理不尽なことで満ちていると思わざるを得ないね
誰も彼もが極上のレースでもしてるつもりなんだろう
お前となんか競り合いたくもないね
僕はわざと極端に減速してやる
街の手前のトンネルの路面は酷く状態が悪くて
一瞬も落ち着いて走ることなんて出来やしない
どうして直さないんだろうといつも思うけれど
ここを止めたら随分遠回りしないといけないことになるもんな
でも仕方が無いって思うことが増えたら
当り前に生きるしかなくなってしまう
そんなのはやっぱり御免だね
あとは家までまっすぐ
途中で自販機を見かけたら何か飲もう
ついでに歯医者に電話をかけてクリーニングの予約をしようと思ったんだけど
留守番電話に切り替わって初めてゴールデンウィークだと気付いた
毎日の歯磨きをうんと真面目にやるモチベーションにするしかない
輪の広い麦わら帽子を買おうかどうか悩んだんだ
仕事中にかぶろうかなと思ってね
あんまり顔ばかり日焼けするのもどうかって
でも酷く荷物になるからいつも諦めるんだ
いつか、まあ、そのうち
よっぽど余裕があるときにでも考えることにするよ


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