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不定形な文字が空を這う路地裏

艶めく唇の闇



相反する表裏を反転させる様に夜の歪みの中で俺は懸命に分離していた。
不整脈の様な覚束無いリズム、神経症的なノイズが眼球にレッドラインを引く、ああ、俺は不思議なほど甘んじてカオスの誘う先を見た。
中性的な微笑を持つ忌々しい瞳の天使、契約書を読み上げるまでも無く彼女は俺の首筋に甘美な腫れを刻み込む、ああ、俺は悲鳴をあげる事すらしようとはしない…それはあらかじめ決められていた絶望の認知の様だ、キリストは多分、受け入れることをとても懸命に行うことが出来たのだろう。
彼女がマーキングした幾つかの印から本質的な血液が伝うのを感じた、俺はきっと何らかの取り決めによって形を変えられたのだ、それなのに―癌の様に体内に喰らいついている悪魔は牙を抜こうとはしない。
俺は闇に棲まうモノに見初められたのか?
血液は模様の様に不自然なほど真っ直ぐに身体の中枢をなぞる様に黒曜石の艶の上に落ちてゆく、指先で辿るとそこから隠したものが次々と漏れている様な気がした。
俺は何かを組み違えたのか?それはしかし問いほどに明確な輪郭を持ちはしない…だいたいが俺はいきなり深部に達そうと欲を掻き過ぎるのだ。これはどうだ、まるで身体の方が先に、
どうにもならぬと泣いているようではないか?
言葉のすべては粗忽なものよ…天使は唇を濡らしながら購いを求める様に床と同じ色味の声を持って囁いた。だから貴方は犯すみたいに言葉を綴っているのでしょう?
違う、と俺は答える。まるでそれが真理であるかの様に。
だがその実は、くちばしの長い鳥がどんな蟲にでも喰らいつく様なそんな程度の反射でしかなかった。天使は指を舐めながら唇の端を耳に突き刺す様に笑う―多分彼女にはすべて見えているのだ。けれども彼女は俺の背中にあるものについて一切言及をしようとはしない。おそらくそれは彼女にとっては取るに足らないことなのだろう…俺が彼女の欲望をすべて満たすことが出来るわけでもないし。流れた血は凝固して皮膚に絡みつく。まるでつたない身体に無為な奉仕の見返りを求めようとするみたいにね。その幾つかの筋を見ているとまさしく、俺の人生は性悪だったのだとそう思えてくる。
天使はオクターブ上のキーで笑い始める―呆けた俺の眼差しの中にあるものを真っ直ぐ見つめながら。ああ、お前は悪意で語ることが出来るのだな、光を通す水晶の様な艶めいた肌の天使。お前の愛情は多分鋭利な刃以上の鋭さを持って突き立てられるのだろう…俺の心臓にもし価値があるのなら戯れに狙ってみるか?夜が白み始める前に…俺の回帰熱が息を吹き返す前に。
天使は唇を舐める―夜は、
夜は何かを隠す様にいっそう闇の色を深くした。

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