歩合給とは、業績や売上高に応じて給料が支払われる給料形態の一つ、そして完全歩合給とは、給料をもらえる保証がなく、全て業績や売上高によって報酬が支払われる方式で「完全歩合制」、「フルコミッション制」などと呼ばれていて、業務委託契約者やタクシー乗務員、保険の外交員などで見られる賃金体系だ。
タクシー乗務員の場合、業界では「オール歩合賃金」とか「B型賃金」と呼ばれていて、全国的に多くの事業者が採用している。
月給にだけ採用していて別にボーナスや退職金を用意している会社もあるが、「ボーナスも退職金も全部含めて売上×○○%」ってな大雑把な賃金制度の会社もあって、さらに時間外手当や深夜手当や休日出勤手当もぜんぶ引っくるめてこの歩合率に含まれているのだと主張する会社もたくさんあるが・・・。
少し前の新聞記事だが、取り上げるつもりにしていて取り上げ忘れていたことに気付いたのでちょっと書いておく。
札幌市のタクシー会社「朝日交通」の労組員の運転手6人が、完全歩合制による給料が時給換算すると最低賃金にも満たないとして最低賃金との差額などを会社に求めていた訴訟の判決が9月28日、札幌地裁であった。長谷川恭弘裁判官は、請求額のほぼ全額と、労働基準法違反の使用者を制裁する「付加金」についても未払い賃金と同額を払うよう命じた。判決は、最低賃金との差額などの未払い分が、2008年からの2年間で1人当たり約22~185万円あるとし、原告側の請求額のほぼ全額を認めた。会社側は、全国の大部分のタクシー会社が同様の完全歩合制の賃金体系を採用しており、差額や付加金の支払いは相当ではないと主張した。しかし、長谷川裁判官は「仮に日本全国のタクシー会社が労基法違反の完全歩合制を採用しているのであれば、無理な運転を助長させ、乗客の安全性にもかかわる。むしろ、違法行為を防止する観点からも付加金の支払いを命じることが相当」と述べた。原告と代理人弁護士らは記者会見し「請求額と同額の付加金が命じられるケースは全国でもほぼ例がない。意義深い判決だ」と語った。朝日交通は「判決文をみていないのでコメントできない」としている。
朝日交通事件【札幌地判平14・9・28】であるが、この会社(朝日交通(株))は、基本給を総営業収入(売上)に対し、基本給を34%、深夜時間手当を4%、超勤時間手当11.8%、臨時労働手当を4.2%に割り振っていたのだが、判決では、「労基法等に従った時間外等の各割増賃金の支払わないものであって、出来高が少なければ最低賃金を下回る場合もあるし…労基法等に違反することは明らかである」として、時間外手当が支払われていないとした。
また、労使協定には「ハンドル時間(実際に運転している時間)をもって実労働時間とし、15分以上の停車については休憩時間とみなす」という協定があったが、判決では「客待ちのための停車が15分以上となることも十分あり得るものと考えられ、15分以上の停車を休憩時間とみなすことは相当でなく、休憩時間協定があるからといって、15分以上の停車を勤務時間から除外することはできない」として、協定に基づく労働時間のカットを否定した。
さらに記事にあるように、会社側が主張した「全国の大部分のタクシー会社が同様の完全歩合制の賃金体系を採用しており、差額や付加金の支払いは相当ではない」について判決では「仮に、被告が主張するように、日本全国の大部分のタクシー会社が、被告と同様に労基法等に違反する完全歩合制を採用しているのであるとすれば、タクシーの乗務員に過重な労働を強いたり、出来高を上げるための無理な運転等を助長させることにもつながり、従業員及び乗客のみならず第三者を含む道路交通の安全性にも関わるものであって、むしろ、違法な行為を防止するという観点からしても、付加金の支払を命ずることが相当というべきである」として、賃金同額の付加金の支払を命じた。
この判示部分について、この裁判を支えた北海道タクシー労働者支援弁護団は「時間外手当を支払わない完全歩合制の問題性を鋭く指摘するものであり、画期的な判示であると考えています。」としている。
この判決の後、同様の裁判があちらこちらで提訴されているのだけど、実はこの判決が初めてのケースというわけではなく、古くは朝日タクシー事件【福岡地判昭45・2・20】や高知県観光事件【最小判平6・6・13】などがあったのだが、このような違法である賃金体系を業界の慣習として当たり前に採用しているタクシー事業者に対してここまで踏み込んで警鐘を鳴らしているという点で、この判決はたいへん重要なのだ。
今のタクシーの厳しい経営環境の中で、労働基準法と最低賃金法を忠実に守っていたら「会社が潰れる」と主張する経営者も多いのだけど、同じ状況でも法令をきっちりと守って経営している会社も当然にあるわけで、「公正な競争」ということでは、法令を遵守しない事業者には支払うものちゃんと払ってからお引き取り願いたい。
一方、労働組合の立場で「組合員の雇用を守る」ということを考えた場合、「会社に法律を守らせたら会社が潰れてしまう」と考えるのか、「うちの会社にはちゃんと法令遵守して、悪質事業者が潰れた時には、しっかりと勝ち残るのだ」と考えるのかは、きっと悩ましい問題。
しかし先送りしたり見て見ないふりをしていられる状況では無いってこと、ってのは間違いない。
タクシー乗務員の場合、業界では「オール歩合賃金」とか「B型賃金」と呼ばれていて、全国的に多くの事業者が採用している。
月給にだけ採用していて別にボーナスや退職金を用意している会社もあるが、「ボーナスも退職金も全部含めて売上×○○%」ってな大雑把な賃金制度の会社もあって、さらに時間外手当や深夜手当や休日出勤手当もぜんぶ引っくるめてこの歩合率に含まれているのだと主張する会社もたくさんあるが・・・。
少し前の新聞記事だが、取り上げるつもりにしていて取り上げ忘れていたことに気付いたのでちょっと書いておく。
札幌市のタクシー会社「朝日交通」の労組員の運転手6人が、完全歩合制による給料が時給換算すると最低賃金にも満たないとして最低賃金との差額などを会社に求めていた訴訟の判決が9月28日、札幌地裁であった。長谷川恭弘裁判官は、請求額のほぼ全額と、労働基準法違反の使用者を制裁する「付加金」についても未払い賃金と同額を払うよう命じた。判決は、最低賃金との差額などの未払い分が、2008年からの2年間で1人当たり約22~185万円あるとし、原告側の請求額のほぼ全額を認めた。会社側は、全国の大部分のタクシー会社が同様の完全歩合制の賃金体系を採用しており、差額や付加金の支払いは相当ではないと主張した。しかし、長谷川裁判官は「仮に日本全国のタクシー会社が労基法違反の完全歩合制を採用しているのであれば、無理な運転を助長させ、乗客の安全性にもかかわる。むしろ、違法行為を防止する観点からも付加金の支払いを命じることが相当」と述べた。原告と代理人弁護士らは記者会見し「請求額と同額の付加金が命じられるケースは全国でもほぼ例がない。意義深い判決だ」と語った。朝日交通は「判決文をみていないのでコメントできない」としている。
朝日交通事件【札幌地判平14・9・28】であるが、この会社(朝日交通(株))は、基本給を総営業収入(売上)に対し、基本給を34%、深夜時間手当を4%、超勤時間手当11.8%、臨時労働手当を4.2%に割り振っていたのだが、判決では、「労基法等に従った時間外等の各割増賃金の支払わないものであって、出来高が少なければ最低賃金を下回る場合もあるし…労基法等に違反することは明らかである」として、時間外手当が支払われていないとした。
また、労使協定には「ハンドル時間(実際に運転している時間)をもって実労働時間とし、15分以上の停車については休憩時間とみなす」という協定があったが、判決では「客待ちのための停車が15分以上となることも十分あり得るものと考えられ、15分以上の停車を休憩時間とみなすことは相当でなく、休憩時間協定があるからといって、15分以上の停車を勤務時間から除外することはできない」として、協定に基づく労働時間のカットを否定した。
さらに記事にあるように、会社側が主張した「全国の大部分のタクシー会社が同様の完全歩合制の賃金体系を採用しており、差額や付加金の支払いは相当ではない」について判決では「仮に、被告が主張するように、日本全国の大部分のタクシー会社が、被告と同様に労基法等に違反する完全歩合制を採用しているのであるとすれば、タクシーの乗務員に過重な労働を強いたり、出来高を上げるための無理な運転等を助長させることにもつながり、従業員及び乗客のみならず第三者を含む道路交通の安全性にも関わるものであって、むしろ、違法な行為を防止するという観点からしても、付加金の支払を命ずることが相当というべきである」として、賃金同額の付加金の支払を命じた。
この判示部分について、この裁判を支えた北海道タクシー労働者支援弁護団は「時間外手当を支払わない完全歩合制の問題性を鋭く指摘するものであり、画期的な判示であると考えています。」としている。
この判決の後、同様の裁判があちらこちらで提訴されているのだけど、実はこの判決が初めてのケースというわけではなく、古くは朝日タクシー事件【福岡地判昭45・2・20】や高知県観光事件【最小判平6・6・13】などがあったのだが、このような違法である賃金体系を業界の慣習として当たり前に採用しているタクシー事業者に対してここまで踏み込んで警鐘を鳴らしているという点で、この判決はたいへん重要なのだ。
今のタクシーの厳しい経営環境の中で、労働基準法と最低賃金法を忠実に守っていたら「会社が潰れる」と主張する経営者も多いのだけど、同じ状況でも法令をきっちりと守って経営している会社も当然にあるわけで、「公正な競争」ということでは、法令を遵守しない事業者には支払うものちゃんと払ってからお引き取り願いたい。
一方、労働組合の立場で「組合員の雇用を守る」ということを考えた場合、「会社に法律を守らせたら会社が潰れてしまう」と考えるのか、「うちの会社にはちゃんと法令遵守して、悪質事業者が潰れた時には、しっかりと勝ち残るのだ」と考えるのかは、きっと悩ましい問題。
しかし先送りしたり見て見ないふりをしていられる状況では無いってこと、ってのは間違いない。
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