セクハラのいきな清算、こっそり教えます。

2018年05月05日 | 日記・エッセイ・コラム
「テレビを見てると、皆さんお気の毒で・・・私なんかセクハラで結婚させられたようなものですから」
 細身のジーンズに白のTシャツ、70歳にはみえないシャープな目元を優しく下げて、おっしゃいます。
 転居された患者さんが、連休で顔を出してくださいました。
 その患者さんは、さるお方の秘書を長く勤め、
「麻雀のメンバーが足りないと言っては朝まで付き合わされて、おかげで私が一番強くなってしまいました」
「出張に連れていかれたおかげで、世界中いろんなところに行けて、もう旅行には行かなくても十分なんです」
 その方の奥さまが亡くなると、乞われて後妻になられました。
「便利だったんでしょう、都合の悪いことも知ってしまったから口封じにもなるし」
「結婚したからといって、何も変わりませんでした。他のところへのお出かけも全く変わらずで」
 艶福家のご主人が倒れられたのも、別なお宅でした。
 ご主人が亡くなられたあとの財産のことも、その患者さんがしっかり差配なされて、先妻のお子さまたちからも信頼されていました。特にお嬢さんとは仲が良くて、そのまま一緒にお住まいなることを望まれていたのですが、一段落値ついたところで、ご自分で買われた郊外のお住まいに引っ越されました。
「結婚のときに、一切財産はもらわない約束したんです、私からお願いして。でも絵が好きな人だったので、私のことを描いた絵だけはもらったのです。お見せできないような恰好もずいぶんさせられたんですよ、セクハラでしたよ」
 私は患者さんのTシャツをまじまじと見つめてしまいました。
「がたがたする額縁があったので、開けてみたら、キャンバスの裏から、商品券がたくさん出てきました。他の絵からも出てくる出てくる、計算するのも面倒なぐらい」
「経費になるから、と言ってしょっちゅう商品券を買いに行かされていたんです。麻雀の清算にしては多すぎるから、どうせ、どこかの女のお土産にするんだろうとおもっていたのですが・・・」
「でも、いいお給料もらっていたので、それで十分。財産はいただかないという約束だったので、全部子供たちに返してきました」
「そうしたら、息子がひょっとして他の絵にも、って物置に走ったんです。主人が亡くなってすぐ、壁から外して仕舞込んだくせに」
 私が身を乗り出すと、
「でも、残念でした」と患者さんは、ちょっと得意そうに微笑まれました。
 お気の毒なのは、どちらの側なのか?野暮なことは訊けませんでした。