名古屋の病院で、救急搬送された男子高校生が研修医による重大な医療過誤で、昨年死亡したと報道されました。
男子高校生は腹痛、嘔吐の症状で救急車にて受診し、研修医が診察し、腹部のCT検査などを実施し、胃の拡張などの所見を認めたものの、採血検査で異常なしで、急性胃腸炎と診断し帰宅させたとのこと。その後症状改善せず、高校生は再度、救急外来受診するのですが、別の研修医が「新規の症状なし」と判断し、翌日に近医を受診するように指示しました。翌日近医を受診したところ、緊急性ありとのことで、元の病院に紹介し入院となるも、ショック状態から心肺停止となり、亡くなったとのこと。
死亡の原因は「上腸間膜動脈症候群」でした。
研修医の落ち度を時系列に並べた記事なので、実際の症状経過はわかりませんが、たとえ研修医と言えども、本当に危険な状態の患者を2度にわたって、しかもそれぞれ別の研修医がみて帰宅させるとは考えにくく、もし少しでも心配な所見があれば上級医に相談するはずなので、マスコミ報道だけでこの研修医を責めることできません。
「上腸間膜動脈症候群」は腹部大動脈と上腸間膜動脈に十二指腸が挟まれて消化管閉塞を起こす病気です。上腸間膜動脈は腹部大動脈から出る枝で、十二指腸はその枝の分かれ目の下を通っているので、構造上この2本の血管に挟まれる可能性があります。ここは内臓脂肪も豊富な場所で、脂肪がクッションになって十二指腸が閉塞を起こす程しっかりと挟まれてしまうことは稀です。内臓脂肪の少ない痩せた若年者では閉塞を起こす可能性もあるのですが、少し挟まれて腹痛などの症状が出ても、吐くことで圧が下がって、来院したときには症状は改善し、そのまま治ってしまうこともあります。今回の事件でも、2度の救急受診をする直前は激しい症状があったものの、おそらく診察室ではかなり軽減していて、研修医は帰宅させたのだと推察されます。そして3回目の時には完全に挟まれて元に戻らずに、腸閉塞から敗血性ショックへ進んでしまったのかもしれません。
実は、私も「上腸間膜動脈症候群」の患者さんを経験したことがあり、同業者でした。急激な腹痛や嘔吐を繰り返すも、吐くと楽になるので、自分で点滴しながら仕事もしていたのですが、いよいよ痛みが強くなり改善しない、熱も出てきたと相談され、もしかしたらとレントゲンを撮ったら案の定腸閉塞をおこしていて緊急手術となり、幸いなことに救命できました。彼は自分が医者なので、自己治療して救急受診を繰り返さなかっただけで、経過としては、今回の事件とそっくりです。
令和2年の114回医師国家試験に「健常人の腹部造影 CT の連続スライスを別に示す。急激な体重減少などにより腹部大動脈との間隙に十二指腸が挟まれ、食後の嘔吐や腸閉塞の原因となり得る血管はどれか」という出題があり、CT画像から上腸間膜動脈を選択できれば正解です。4年前の国家試験なので、名古屋の研修医たちも過去問題として勉強しているはずです。彼らが「上腸間膜動脈症候群」を知らなかったはずがない。ただ診断名、原因、病態を知っていても、目の前の患者さんのリアルな経過から、この診断を思い至ることは難しかった可能性はあります。またもし思い当たったとしても、自然軽快する場合も少なくないので、経過観察としてしまったのかもしれません。
報道だけで「研修医の誤診事件」と判断することには躊躇しますが、当分は全国の医師が腹痛の患者さんを診察するときに、この病気が頭をよぎるはずです。救われる患者さんが増えることを願っています。
男子高校生は腹痛、嘔吐の症状で救急車にて受診し、研修医が診察し、腹部のCT検査などを実施し、胃の拡張などの所見を認めたものの、採血検査で異常なしで、急性胃腸炎と診断し帰宅させたとのこと。その後症状改善せず、高校生は再度、救急外来受診するのですが、別の研修医が「新規の症状なし」と判断し、翌日に近医を受診するように指示しました。翌日近医を受診したところ、緊急性ありとのことで、元の病院に紹介し入院となるも、ショック状態から心肺停止となり、亡くなったとのこと。
死亡の原因は「上腸間膜動脈症候群」でした。
研修医の落ち度を時系列に並べた記事なので、実際の症状経過はわかりませんが、たとえ研修医と言えども、本当に危険な状態の患者を2度にわたって、しかもそれぞれ別の研修医がみて帰宅させるとは考えにくく、もし少しでも心配な所見があれば上級医に相談するはずなので、マスコミ報道だけでこの研修医を責めることできません。
「上腸間膜動脈症候群」は腹部大動脈と上腸間膜動脈に十二指腸が挟まれて消化管閉塞を起こす病気です。上腸間膜動脈は腹部大動脈から出る枝で、十二指腸はその枝の分かれ目の下を通っているので、構造上この2本の血管に挟まれる可能性があります。ここは内臓脂肪も豊富な場所で、脂肪がクッションになって十二指腸が閉塞を起こす程しっかりと挟まれてしまうことは稀です。内臓脂肪の少ない痩せた若年者では閉塞を起こす可能性もあるのですが、少し挟まれて腹痛などの症状が出ても、吐くことで圧が下がって、来院したときには症状は改善し、そのまま治ってしまうこともあります。今回の事件でも、2度の救急受診をする直前は激しい症状があったものの、おそらく診察室ではかなり軽減していて、研修医は帰宅させたのだと推察されます。そして3回目の時には完全に挟まれて元に戻らずに、腸閉塞から敗血性ショックへ進んでしまったのかもしれません。
実は、私も「上腸間膜動脈症候群」の患者さんを経験したことがあり、同業者でした。急激な腹痛や嘔吐を繰り返すも、吐くと楽になるので、自分で点滴しながら仕事もしていたのですが、いよいよ痛みが強くなり改善しない、熱も出てきたと相談され、もしかしたらとレントゲンを撮ったら案の定腸閉塞をおこしていて緊急手術となり、幸いなことに救命できました。彼は自分が医者なので、自己治療して救急受診を繰り返さなかっただけで、経過としては、今回の事件とそっくりです。
令和2年の114回医師国家試験に「健常人の腹部造影 CT の連続スライスを別に示す。急激な体重減少などにより腹部大動脈との間隙に十二指腸が挟まれ、食後の嘔吐や腸閉塞の原因となり得る血管はどれか」という出題があり、CT画像から上腸間膜動脈を選択できれば正解です。4年前の国家試験なので、名古屋の研修医たちも過去問題として勉強しているはずです。彼らが「上腸間膜動脈症候群」を知らなかったはずがない。ただ診断名、原因、病態を知っていても、目の前の患者さんのリアルな経過から、この診断を思い至ることは難しかった可能性はあります。またもし思い当たったとしても、自然軽快する場合も少なくないので、経過観察としてしまったのかもしれません。
報道だけで「研修医の誤診事件」と判断することには躊躇しますが、当分は全国の医師が腹痛の患者さんを診察するときに、この病気が頭をよぎるはずです。救われる患者さんが増えることを願っています。