ヒーメロス通信


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ボードレール 「通りすがりの女へ」 小林稔訳詩『悪の花』より

2015年12月24日 | ボードレール研究

ボードレール『悪の花』から「通りすがりの女へ」訳詩・小林稔

 

 

13 通りすがりの女へ A UNE PASSANTE

 

 街路は私の周囲で耳を聾せんばかり吠えていた

背が高く、ほっそりとした、正装の喪服に厳かな苦悩を抱え、

ひとりの女が通りすぎた、右手を気高く持ち上げ

裾の花綱飾りと花柄をつまみ揺すりながら。

 

軽やかで気品ある、彫刻の脚をした彼女、

私は度を超した男のように、身を引きつらせ

彼女の眼のなかの、嵐の兆しである鉛色の空

私は飲んだ、幻惑する優しさと、命を奪い取る快楽を。

 

閃光・・・・・・そして夜! ――逃げ去る美、

彼女の眼差しで、私はとつぜん真実、われに目覚めた、

もう永遠のなかだけでしか、私はきみに逢えないのだろうか?

 

他の場所で、ここからずっと遠く! 遅すぎた! 絶対に、おそらく! 

きみが逃れいくところを私は知らない、私が行くところをきみは知らない、

おお 私が愛したであろうきみ! おお そのことを知っていたきみよ!

 

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