ヒーメロス通信


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ボードレール『悪の花』から「踊る蛇」の訳詩・小林稔

2013年05月01日 | ボードレール研究

ボードレール『悪の花』から「踊る蛇」の訳詩・小林稔

 

16 踊る蛇 LE SERPENT QUI DANSE

 

私はこんなにも愛する、いとしい物憂げな人よ、

  それほどにも美しいあなたの肉体が

ゆらゆら揺れる布地のように

  肌をきらめかすのを見ることを!

 

深いあなたの髪のうえで

  きつく放つ香りに

匂い立つ、さすらいの海

  青く褐色の浪に、

 

目覚める一艘の船のように

  朝の風に

夢見がちな私の魂は船出する

はるかなる空を目指して。

 

あなたの眼差しは、

優しさも、苦さも見せずに

金を鉄に混ぜ合わせる

二つの冷たい宝石だ、

 

拍子を取って投げやりに歩く、

美しいあなたの姿を見たならば

人は、杖の先端で

  踊る蛇にも喩えよう。

 

怠惰の重荷を足許に

  子供のようなあなたの頭部は

幼い象のようなしなやかさで

  体を揺すり、均衡を計りつつ、

 

ほっそりとした船が

岸から岸へ、その身を転がし

水に帆桁を沈めるように

  あなたの体は傾いて横に伸びる。

 

氷河が唸り声をあげて溶けて、

ふくれあがった波のように

あなたの歯の縁まで水が

  唇に押し寄せてくるとき、

 

私は飲んでいる心地がする

  ボヘミアの葡萄酒を

苦く、勝ち誇ったように、私の心に

  星をちりばめる液体の空を!

 

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