詩誌「ヒーメロス」27号掲載作品
タペストリー 6
小林 稔
時の迅速な流れは止まることなく
追億に映し出される人生は
滔々(とうとう)と流れる大河
神経の痺れが意識の岸辺に辿りつく
〈死の領土〉の敷居を跨ぐようにと
睡魔がしきりに手のひらを返す
波は舟に横たえた私の身体を揺らし
遠ざかりつつ近づく石の建物の群れを
私は一つ二つと数えている……
……眠れよ眠れ、この静かな真昼
少年の息の根をふさぎ
引き抜いては小わきに抱え
連れ去ろうと夢見る邪悪なものから逃れよ
とある駅前広場
左から右から寄せる人ごみからはみ出し横切って行く
坊や、人生は残虐だ
おまえのかろやかな立居、たおやかな身体
家庭の日常から遮断され
おまえがそこにいることがすでに奇跡だ
かりそめの形姿を身にまとい立ちすくむ者
この不可思議な生きものでさえ
時は無数に伸びたその足で容赦なく踏みにじる
あこがれを牽引させ、虚空に私を引っ張りだす
そいつはいったい何者か、と問う私に
そいつはかつてのおまえだよ
という声がどこからか返ってきた
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