緑 島 小 夜 曲

春を愛する人は、心優しい人。

案山子

2007年06月14日 08時52分42秒 | 風景開眼
 今日は「案山子」という児童的短編を書きました。案山子は僕の好きな田舎のものです。それを主人公にするのも面白かったです。
             
 
                案山子

 案山子が寂しく向日葵畑に立っている。身元の向日葵らより背が高いが、彼はとても己の醜い格好にコンプレックスを感じていた。それが原因で毎日ため息ばかりをついた。
 ある初夏の朝である。太陽に向かってにこにこと笑っている向日葵らの顔を見ながら、案山子はおずおずと傍の向日葵に話をしてみた。
 「お、お、おはよう御座います。」
 「ああ、君ですか。おはよう御座います。君はどうして毎日ため息ばかりをつきますのか。何か悲しいことや不幸な遭遇があるのでしょうか。」と向日葵は問いました。
 「い、いや、別にありませんが、」
 「なければ、なぜ悲しそうな顔をしていますのか。」と向日葵はまた聞きました。
 「それは、それは、僕の格好のせいです。」
 「格好!どうして、君は立派ではありませんか。我々向日葵はみんな君の格好に羨ましいですよ。」
 「本当ですか。」
 「ええ、本当ですよ。毎日立派な格好で畑に立ってて、それで威風堂々ではありませんか。雀らが凄いでしょう。あれで君の事を恐れますよ。」
 「本当ですか。全然知りませんでした。良いことを言ってくれて、ありがとう御座いました。」と案山子は今楽しそうに向日葵にお礼をした。
 「僕って、そんなに格好いいのでしょうか。この前全然知りませんでした。良かったです。良かったです。」と夜になると、案山子はひとりで呟いていた。

 秋は実りの多い季節である。毎日沢山の雀らが向日葵畑の上を飛びまわっていた。ある日のことである。
 「この前、向日葵さんは僕の格好、とても良いって言いましたが、今日それを雀らに確かめてみよう。」と案山子は一人で呟いた。
 「雀さん!雀さん!ちょっと僕の肩に留まってくださいませんか。恐れるな、恐れるな。僕です。案山子です」と案山子は大声で空中を飛んでいた雀の群に叫んだ。
 雀らは案山子の叫び声を聞くと、ジージーと一斉に彼の肩に留まった。
 「こんにちは。誰かと思ったら、何だ君でしたのか。何かご用がございませんか。」
 「ちょっと君らに確かめたいことがありますが、僕が案山子って知る前に、恐れたことがありますか。」
 案山子の質問を耳にすると、雀らはみんな笑いながら、
 「恐れるわ!とても恐れるわ!案山子様は立派で、凄いですわ。」とおばさんらしい雀が狡猾そうに案山子に言いかけた。
 「本当ですか。どうもありがとうございます。いいこと言ってくれてうれしいです。」
 「では、またね。食事をしに行きますから!」と雀らは、にたりと笑いながら向日葵畑へ飛びに行った。
 「ちょっと!君たち!嘘! やめてください。やめてください。やめてください。」と案山子はいくら叫んでも、雀らは今度やめていなかった。

 翌日。向日葵畑がメチャメチャになってしまった。それに、主人が怒って案山子を取り去った。