あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

生麺

2023-04-05 | 
随分と前の話だが、トーマスに生パスタをご馳走になったことがあった。
一部始終を見学したが、これなら自分でも出来そうだなというイメージが湧いた。
細かい作業の手順などは、自分で何回かやってみて微調整をすれば良い。
大切なのはできるイメージが湧くかどうかだ。
何も知らない状態だと、「やるのは難しいのではないか」と人は思ってしまう。
何故なら、知らないということを本能的に人間は恐れる。
でも実際に見学して話を聞いて、自分のところでやるシュミレーションが出来たら8割以上は出来たようなものだ。

僕が最初にニワトリを飼い始めた時がまさしくそうだった。
何も知らないうちは全くイメージが湧かなかったが、友達が飼っているのを見て直感的に「あ、これならできる」と思った。
庭の空いているスペースを片付けて、鶏小屋を建てて、柵で囲って、そんな具合に頭の中でシュミレーションが瞬時にできたのだ。
そこからは友達の大工が鶏小屋用に廃材を分けてくれたり、別の友達が鶏を買うのにつきあってくれたり、トントン拍子にことが進んだ。
それが10年以上前の話で、その時にはまさか卵がスーパーからなくなるとは思っていなかったが、今となってはありがたい事に我が家では卵に困らない。
卵には困らないのだが、鶏が手に入りにくくなった。
みんな考える事は同じで、卵が買えないなら自家採取しようと思うのだろう。
ここ10年ぐらいは鶏農家から買っていたのだが、去年は全て売り切れで買えなかった。
途方に暮れていたが、運良く別の個人でやっている所から3羽買って今に至る。
家の卵は我が家の食生活を豊かにするし、余った物は友達の食卓へ廻る。
これが幸せのバイブレーションと呼ぶのだろう。



庭の鶏のおかげで常に新鮮な卵が手に入るので、我が家ではマヨネーズも自家製だ。
アヨネーズの主原料は酢と油と卵、味付けは塩と胡椒だけだ。
ブレンダーで作れば30秒で出来る。
最初は失敗もしたが、コツさえつかめばそう難しいものでもない。
直接食べるものだから、お酢と油だってきっちりとした物を使う。
当然ながら美味い。
この卵をパスタに使わない手はない、という話をトーマスとしたのが数年前。
トーマス家でパスタマシンで手打ちパスタを見せてもらった時だ。
それからというものたまにショッピングモールに買い物に行く時など、パスタマシンを覗いたりしていた。
これが欲しいな、と思う物は140ドルぐらいするもので、なんとなく今じゃないなと思って数年が過ぎた。
つい先日、女房と買い物に行った時にブラリと入った店で、そのパスタマシンが50ドルになっていた。
現品限りのセールだったのだろう。
迷わずに買った。



そのパスタマシンであるが、原理は簡単である。
小麦粉と卵と塩少々を混ぜ合わせ捏ねた物を、薄く伸ばし細く切る機械。
ただこれだけの事だ。
いたって原始的な機械なので、数回もやればコツは掴める。
麺の薄さや太さも調整できる仕組みになっていて、これはパスタソースや具で変えていけばいいのだろう。
そのパスタの原材料は小麦粉だ。
よくデュラムセモリナという言葉を聞くが、あれはデュラムという麦を挽いた小麦粉の事だ。
これもぶらっと入った輸入食材屋でイタリア産のパスタ用デュラムセモリナ粉をセールで売っていて即買いした。
そうやって作った生パスタを何のソースで食おうか。



先ずは何はともあれカルボナーラであろう。
プロレタリア万歳のレギュラーであるナナちゃんが燻したベーコン、我が家の新鮮な卵、そこに酪農王国ニュージーランドの生クリームとパルメザンチーズ、味付けは海の塩と粗挽き胡椒のみ。
特別に高い食材ではないがそこに行きつくまでの手間ヒマがかかっている。
これが本当の意味でのご馳走である。
生クリームと卵黄のソースはねっとりと出来たてのパスタに絡み、そこにパルメザンチーズと燻製の香りが混じり合う。
シンプルなパスタだからこそ食感を損なわないよう、我が家では卵黄だけを使いそれを皿の上でかき混ぜて完成とする。
卵白を使うと水っぽくなるし、火を通しすぎるとボソボソした食感になってしまう。
さてさてその感想はと言えば、文句なく美味い。
バリラ、ディチェコ、ディベラといったイタリアパスタの老舗メーカーの乾麵が持つアルデンテの食感とは明らかに違う、もちもちした食感が生パスタの醍醐味だ。
もちもち麺にねっとりソース、そこに自家製ベーコンの香りと卵とクリームのコク。
これはもはや芸術の域である。
本当に美味い物には、人間を感動させる力がある。
それは大人とか子供とかは関係なく、子供にだって、いや子供だからこそ分かるものもある。
友達の子供に食わせたら、大喜びでむさぼり食った。
それからは事あるごとに「カルボナーラ食べたい」と言う。
未来を担う子供に、感動的に美味い物を食わせるのは大人の務めだ。



それから定番のトマトソースもやった。>
理由は庭のトマトが赤く熟したから。
これもまたシンプルなソースで、材料はオリーブオイル、トマト、ニンニク、塩、香り付けにバジル、月桂樹、それだけだ。
シンプルな酸味のソースでそれなりに美味しいのだが、これは乾麺の方が美味いような気がする。
多分ペペロンチーノみたいなのもダメだろうな。
それよりもっとコクのあるソースがいいのだろう。



コクのあるソースということで、ラグーというミートソースを作ってみた。
具材はオックステール、牛の尻尾だ。
これは普通の肉屋では売っていないが、良く行く韓国人経営の肉屋で売っている。
先ずはそれを赤ワインと香味野菜で煮込みシチューを作る。
テールシチューは死んだ親父の得意料理を譲り受けたものだ。
銘々の皿の取り分けた上に、生クリームを少しかけて食す。
何日もかけてゆっくり煮込んだテールは、ホロリと骨から外れるぐらいに柔らかい。
ワインやトマトの酸味、野菜の甘み、ハーブの香り、肉のコクが複雑に絡み合う。
ちなみに味付けは塩胡椒だけである。
ソース自体は酸味が強いのだが、少量の生クリームで全体がまろやかになる。
こういった煮込み料理は、ある程度時間が経ったほうが旨い。
骨つき肉を骨から外し小さめに切り、野菜はすでに煮込んでグズグズになっているのでそのまま潰してしまう。
それを打ちたて茹でたてのパスタに絡めて食う。
濃いめのソースと、やや太めのパスタの相性は良く、文句なく旨い。
こんな旨い物作っちゃって、俺って天才?と自画自賛するぐらいに旨い。
やっぱり生パスタは、こういうソースがいいな。
ブルーチーズとマッシュルームのクリームソースなんかもいいかも。
さあて次はどんなパスタを作ろうかな。


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