山の頂から

やさしい風

父に敬礼

2008-09-12 23:04:57 | Weblog
 9月7日、父は85歳の生涯を静かに閉じた。
癌の転移による結末である。
入院に際して当初から、父に残された時間は少ないことを告げられた。
家族にとっては毎日が覚悟の日々であった。
そんな中で80歳の母による看病は、誰も真似の出来ない、
慈愛にあふれたものだった。

 警察官の妻として36年間、陰になり日向になりながら勤め、
六十余年の日々を過ごしてきた母。
日に日に衰えてゆく父の身体を擦りながら懸命に励ます姿は、
まさに観音様を感じさせた。

 父の葬儀の日程が決まっても、私には受け入れられないでいた。
しかし、新聞の「お悔やみ欄」に父の名を見たとき、
現実であるのことを実感し、朝の散歩道で泣いた。
母の悲しみは、その身が消えててしまうかと思うようだった。

 喪主である弟は、懸命に悲しみを堪え気丈にその勤めをこなしていたが、
納棺に着せるスーツの皴をアイロンで取りながら、
声を出して泣く姿を見た時、男の悲しみの深さを知った。

 幼い頃、勤めに出る父に向って敬礼をした弟。
長じて父と同じ道を歩み、責任ある地位に昇りつめた弟が、
葬儀の最後、会葬の皆さんへの挨拶を終え、
敬慕と尊敬、感謝の全てをこめて、
クルリと遺影に向かい直立不動で敬礼をした。

 「父さん、ありがとうございました!!」
そして、さようなら。

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