山の頂から

やさしい風

支えるもの

2008-11-14 23:52:20 | Weblog
 六十歳代の女性がスケッチブックを片手にやってきた。
今日は汗ばむほどの好天。山道を独りで歩いてきたという。
団子と玉子焼きをゆっくり味わって勘定を済ませてから、
五十年ぶりに訪ねてきたと仰った。
「あの縁台・・・」と外を指さしながら、
母親に連れられて花見にきたと懐かしそうに目を潤ませた。

 人は、ある頃になると頻りに子供の頃の懐かしい場所を訪ねたくなる。
私も小学校の3年生まで過ごした足利を、
ゆっくり一日をかけて巡ってみたいと思っているが、
今なお実現できずにいる。

 母は十年ほど前から「更生保護女性会」に参加している。
その機関誌に載っていた或る弁護士の寄稿文に心を打たれた。
強盗殺人罪で死刑が確定した男だが獄中で短歌の才が花開き、
毎日歌壇賞まで受賞した。
酷い境遇で育ち、落ちに落ちた人生を歩み昭和42年に刑死した。
そんな人間であったが最後に真の人間性を取り戻し、
一縷の生きる望みを持ちながらも刑の執行により世を去った。

 弁護士は≪人は変わる、変われる≫と述べている。
そして、そのきっかけがたった一言の褒め言葉によって。
親が、恩師が、友人が発した言葉で以て人生を変えられるというのだ。
思い出の中で何度も何度も反芻し支えとなる言葉の持つ力。

 今日のあのスケッチブックを抱えた女性は、
恐らく、母さんと交わした言葉を思い出し涙したに違いない。
今夜の月明けも、いつか見た夜に似ている・・・



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