散歩から帰って何時ものように母に朝のコール。
「お誕生日おめでとう~」電話口に出た母にいの一番に告げた。
少しはにかんだ声で、「ありがとう。でも、目出度くもない年よ」と言う。
80歳と思っていたら、81歳になるのだ。
「ううん、4回めの二十歳で御目出度いことじゃない!」と私。
ハハハ~と笑った母の声が一瞬くぐもる。
電話を切ってから何となく気になった。
久しぶりに実家に出向き、仏壇の父に無沙汰を詫び線香を手向けた。
すると父の字で書かれた母への誕生祝いの熨斗袋が置いてあった。
手に取ってみると、「誕生日おめでとう・・・介護を頼みます」と書かれている。
昨年、父が母に贈ったものらしい。一昨年とその前のと3枚あった。
一昨年のには「薄手のジャンパーでも買って下さい。色男より」などと認めてあった。
背後で母が、出すまいと思ったけれどつい・・・と涙声で言った。
そうか!恐らく、これで朝から涙していたに違いないと思った。
父のいない初めての母の誕生日。
やっと乾いた涙がまた溢れたのだろう。
母が夜床につくまでの間、誰かしら電話をくれたり訪ねて来てくれる。
大勢の方に支えられて幸せな母であるが、
矢張り、父のいない日々は心の奥に寂しさを拭えないでいる。
「18歳と思って頑張るから・・・」なんて、
言っておどける母が、どうか健康で長生きしてくれるよう祈るばかりだ。
母を見ていると、やがて我もいく道と思わずにはいられない。
≪いのち≫という言葉がヒリヒリと胸に痛い。