山の頂から

やさしい風

二つの石

2007-11-28 00:35:45 | Weblog
 封筒は和紙で出来ていた。
表の宛名は黒々とした墨で書かれてあった。

 白田麻紀殿と書かれた文字を見たときに内容が判った様な錯覚を感じた麻紀。
穏やかな気持ちで読み進めた。
先ず突然手紙などを書いたことを詫びていた。
そうしてこの不思議な縁をどうしても表してみたいと書かれている。
岡本明恵というバイオリストは自分の従妹である。
その明恵とミツは女学校時代の親友であったと書かれていた。
麻紀はその事は全く知らなかった。
明恵は音楽大学を卒業後ヨーロッパに渡りウィーンで活躍したバイオリニストであると書かれている。が、40歳代で亡くなった。
彼女が海を渡るまで毎秋にバイオリンのサロン・コンサートを開いていた。
友人、知人を集め欠かさず続けていたと云う。
必ず毎回「シャコンヌ」を弾いたとも・・・
自分はそこでミツと知り合い互いに惹かれるようになったと綴られている。

 ああ~~、だから祖母はバッハが好きだったのかと納得した。
正吾の実家は大きな織物工場を営んでいたらしい。
多くの従業員を抱えるほどの規模だった。
今の時代と違って男女の交際は自由ではなかった。
手紙のやり取りが主で二人で逢うなどという機会はなかったのだ。
麻紀はドキドキしながら、しかし、冷静に読んでいった。