山の頂から

やさしい風

二つの石

2007-11-19 20:17:51 | Weblog
 居間に降りて麻紀は母の正子に声をかけた。
正子は煮物をしていた。
キッチン中良い匂いが立ちこめていた。
正子は料理が好きな女だった。
手早くあっという間に作るのが得意で自慢でもあった。
夫の義彦の酒の肴は幾種類も揃えた。
麻紀もキッチンで立ち働く母の姿は気に入っていたのだ。
何でも話はする方だったが今日の事は何故か躊躇った。
別に隠し立てをする気ではなかったが自分の胸に仕舞い込んだ。
それとなく仏間の祖母の遺影に目を遣ってそれが好いのだと思った。
でも、友人と母校へは行って来たと話した。
正子は元来あっさりとした性格で、それ以上は聞きもしなかった。
何となく麻紀はホッとした。
それが又、不思議な感情だった。
麻紀はミツに会いたかった。心底から会いたいと思った。