ゆうどうの読書記録
ジャンル不問、読んだ本の感想、批評、あらすじ、備忘録。
ゆうどう さんの記事から
韓国行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩
[社会・政治・時事]
金敬哲/著
出版社名:講談社(講談社現代新書 2549)
出版年月:2019年11月
ISBNコード:978-4-06-518194-2
税込価格:946円
頁数・縦:214p・18cm
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「2019年夏以降、韓国では文在寅政権を挙げての反日攻勢が巻き起こっている。だが韓国社会は、たとえ『日本』という要素が加わらなかったとしても、耐えがたい格差社会によって、氾濫寸前にまで国民の『不満の水位』は上がっていたのである。」(p.7)
その不満の水位がどの高さまで来ているのか、世代別に韓国の格差社会、行き過ぎた競争社会の現実をレポートする。未成年者の受験地獄、若者の就職難、中年世代のリストラ恐怖、老人の貧困……。
日本は、西欧近代化300年の歴史を、明治維新以降の100年に圧縮して追体験した。これに対し、韓国では「漢江の奇跡」以降の30年で近代化を達成した。その歪みが、今になって噴き出している。しかし、そんな一言では片づけられないものを感じずにはいられない。韓国(朝鮮半島)の闇、とも言うべきものが、そこに横たわっている。
嫌韓ではない、日本をよく知る韓国人によるレポートだけに、過酷な実態は身につまされる。
【目次】
第1章 過酷な受験競争と大峙洞キッズ
大峙洞キッズとマネージャーママ
何でもありの大峙洞塾業界
政治に振り回される韓国の教育政策
第2章 厳しさを増す若者就職事情
最悪の就職率と卒業猶予生
N放世代とスプーン階級論
第3章 職場でも家庭でも崖っぷちの中年世代
襲いかかるリストラの恐怖
我慢を続ける「雁パパ」たち
第4章 いくつになっても引退できない老人たち
居場所をさがす高齢者たち
「敬老社会」から「嫌老社会」へ
第5章 分断を深める韓国社会
【著者】
金 敬哲 (キム キョンチョル)
韓国ソウル生まれ。淑明女子大学経営学部卒業後、上智大学文学部新聞学科修士課程修了。東京新聞ソウル支局記者を経て、現在はフリージャーナリスト。
【抜書】
●近代化30年(p8)
韓国の代表的な知識人であるキム・ジンギョン氏の考察。
〈日本が明治維新以後、100年で西欧の近代化300年の歴史を圧縮して追体験したとすれば、韓国は60年代以降、30年で西欧の300年を圧縮して経験した。このような速度の中で、こうした狂気じみた変化の中で、(少し誇張して言うなら)私たちは30年の生物学的時間で、300年の叙事的な時間を生きてしまったのだ。恐ろしい速度で西欧を真似していく中で、自分自身を振り返るということは不可能であり、必要なこととも見なされなかった〉
韓国式「圧縮成長」の本質は、効率。限られた資金と資源を、効率優先で配分した。
政府とともに歩む財閥への配分を極度に手厚くし、財閥が市場を独占する「韓国型システム」を作り上げた。
その結果、経済成長の「骨格」はできたが、日本の中小企業や地方企業のような「細胞」は育たなかった。それゆえ、経済の「血液循環」がうまくいかず、富が一部に集中する問題を抱えてしまった。
●大峙洞(p22)
大峙洞(テチドン)……名門高等学校や中学校が集まる江南のなかでも、「韓国の私教育1番地」と呼ばれる地域。3.53㎢の範囲に1,000余りの学習塾や予備校がひしめく。「大峙洞キッズ」と呼ばれる小・中・高校生が集まる。大学受験生の中心地。
旧都心に散らばっていた名門高校を、1976年から江南に移転。京畿(キョンギ)高校など15の名門高校が、「8学群」の江南に移った。
●修能(p61)
修能=大学修学能力試験。毎年11月に実施。韓国の大学進学率は約70%。
受験生が円滑に試験会場に到着できるよう、役所をはじめ、多くの会社で出勤時間が1時間遅くなる。
警察は、白バイで受験生を試験場まで運ぶ「受験生緊急輸送作業」に全力を注ぐ。
英語のヒアリング試験が実施される13:05~13:40は、韓国全域ですべての飛行機の離着陸が禁止される。
多くの親たちは、縁起を担いで飴を身に着け、試験が終わるまで正門の前に立っている。韓国の飴は、軟らかくてべとべとくっ付く。「くっつく」という動詞は、「合格する」という意味を持つ。
●鷺梁津(p97)
鷺梁津(ノリャンジン)……公務員試験を目指す公試生(コンシセン)の聖地。ソウルの中心部に位置し、交通の便もいい。ソウル駅や龍山(ヨンサン)駅にも近い。公試生は、公試族(コンシゾク)とも呼ばれる。「考試(コシ)テル」と呼ばれる、公試生専用の狭い貸し部屋が多く存在する。
最近は物価が上がり、新林洞(シンリンドム)に住む、地方出身の公試生が増えている。
●出生率(p111)
韓国の未婚率……20代で、86.8%(2010年)→ 91.3%(2015年)。30代で、29.2%(2010年) → 36.5%(2015年)。
合計特殊出生率は0.98人(韓国統計庁「2018年出生統計」)。世界初の0人台。
N放(ボ)世代の絶望感を表している。
三放世代……2011年に誕生した造語。恋愛・結婚・出産を諦める若者世代。
五放世代……就職やマイホームも諦める。
七放世代……人間関係や夢まで諦める。
N放世代……すべて(不定数N)を諦める。
●ゲジョン(p120)
「犬」は、韓国では相手を蔑む接頭辞としてよく使われる。
犬場(ゲパン)……ひどく汚れた席。
犬のような○○、犬以下の○○……人をけなすときに使う。
ゲジョン……「犬」と「おじさん」を合体させた言葉。既得権者である中年男性に対する青年世代の不満の表れ。インターネット空間ではやった造語が、リアルの世界にまで進出。
ちなみに、本書では中年を40代、50代と見なしているようである。(p130)
●YouTube(p176)
韓国のシニア層に最も愛されているSNSはユーチューブ。50代以上は1か月に20時間6分も視聴する。
ユーチューブのニュースコンテンツをよく見ている。特に保守的なニュース「チョン・ギュジュTV」「神の一手」などが人気。地上波テレビや新聞が、左派の文在寅大統領に好意的な報道ばかりするため。
シニア層のユーチューバーも多い。
●地下鉄宅配(p184)
「シニアパス」(地下鉄に無料で乗れる)をもつ65歳以上の高齢者が、地下鉄を使って荷物を宅配する仕事。地下鉄の中では、両手両肩に大きなショッピングバッグを十数個も抱えたお年寄りをよく見かける。
稼ぎは、月に30~40万ウォン程度。
●協力(p211)
〔 そんな中、私がいま思うのは、国が内部からヒビ割れている現状を韓国人が認識し、それを克服するため、同じ資本主義の民主国家である隣国=日本との関係を、いち早く修復してほしいということだ。それは、貿易など喫緊の問題を解決しなければならないということもあるが、それ以上に、韓国社会がいま直面している諸問題――少子化、受験競争、高齢化などについて、先に先進国入りした「先輩」(日本)に学ぶことが多いからだ。
同時に日本人にも、韓国社会で起こっていることを深く理解してもらいたい。そのうえで、韓国が抱えている問題の解決に協力してほしいのだ。戦後最悪と言われる日韓関係だが、隣国との付き合いを「嫌韓」だけで済ますことはできないはずだ。少なくとも未来の両国の関係は、信頼し合える隣人同士の温かなものであることを願いたい。そのような思いから執筆したのが、本書である。〕
【赤入れ寸評】
・固有名詞が、漢字+ヨミガナだったり、カタカナのみだったり、人によってさまざまだったのが面白い。日本人になじみのある大統領や政治家は漢字表記だが、インタビュイーの民間人のほとんどはカタカナ表記。朴槿恵大統領弾劾の原因となった側近は崔順実(チェ・スンシル)で、その娘はチョン・ユラ。
漢字を使用しなくなって久しい韓国では、名前を表す漢字を公表していなかったり、そもそも漢字表記を持っていなかったりする人が結構いるのだろうか?
・OCED(p192)
〔 高齢者の自殺率も、OCED加盟国36ヵ国のうち、韓国が断トツだ。統計によると、韓国の65歳以上の高齢者の自殺率は、10万人あたり54.8人に達する。)
OCED → OECDですね。
(2020/2/22)KG