韓国史上最大「経常収支黒字」のカラクリと“中進国の罠”から抜け出せない現実
2015.08.07
韓国銀行によると、2015年6月の韓国の経常収支が122億9000万ドル(約1兆5291億円)の黒字となり、上半期の黒字額総計が史上初めて500億ドル(約6兆2210億円)を突破したとのことである。
以前の韓国であれば、「わが国の経常収支が史上最大の黒字を記録した!」などと、報道で騒ぎ立てていたところだ。
最近の韓国の経済関連の報道は、随分と冷静になっている。経常収支の黒字が最大になったことを受け、「なぜ、黒字が膨らんだのか」についても、冷静な記事が書かれるようになったのだ。
実は、韓国の上半期の経常収支黒字が膨らんだのは、輸出の増加ではなく「輸入の減少」によるものなのである。
経常収支とは、「貿易収支」「サービス収支」「所得収支」「経常移転収支」の4収支からなる。
韓国の経常収支に最も影響を与えるのは貿易収支だ。
貿易収支は「財の輸出」から「財の輸入」を引いて計算される。
輸出が伸び悩んだとしても、輸入が激減すれば、貿易収支や経常収支の黒字は拡大する。
現在の韓国の財の輸出は、伸び悩みどころか減少している。
韓国の7月の輸出額は、前年同月比3・3%減少となった。
これで、7カ月連続のマイナスである。
ところが、輸入の方は2ケタを超える減少になっているのだ。
通関基準で見た韓国の6月の輸入は前年比13・6%減少。
さらに、7月は15・3%の減少である。
輸出が減ったにも関わらず、それ以上に輸入が減少し、貿易収支、経常収支の黒字が拡大する。
まさに、典型的な「不況型経常収支黒字の拡大」である。
韓国の輸入が大幅に減少した理由は、内需の不振だ。
MERS(マーズ=中東呼吸症候群)問題などの影響で、韓国の内需は消費を中心に縮小が継続している。
結果的に、外国からの輸入が減り、経常収支黒字が上半期としては史上最大になったわけである。
加えて、世界的な需要縮小を受け、製造業の設備投資も鈍っている。
特に、最大の貿易相手国である中国の輸入縮小は、韓国経済を直撃する。
15年1月-5月の中国の輸入額は、前年同期比で21%も減少した。
株式バブルが崩壊した以上、中国の輸入が回復する見込みは、現時点では全くない。
韓国の14年の輸出依存度は43・87%と、相変わらず4割を上回っている(ちなみに、日本は15・26%)。
結局のところ、韓国は内需が主導する「先進国型」の経済モデルを構築することに失敗したのだ。
今後の韓国経済は、
外需縮小と内需不振という二重の枷(かせ)をはめられ、
国民所得が伸び悩む、
いわゆる「中進国の罠」から抜け出せない状況が続くことになる。
■三橋貴明(みつはし・たかあき) 1969年、熊本県生まれ。経済評論家、中小企業診断士。
大学卒業後、外資系IT業界数社に勤務。現在は「経世論研究所」所長。
著書に『中国との貿易をやめても、まったく日本は困らない!-中国経済の真実』(ワック)、『繁栄の絶対法則』(PHP研究所)、『超・技術革命で世界最強となる日本』(徳間書店)など多数。