2014-01-17 04:07:02
サムスン・現代がなければ?
浮いているのは朴大統領一人
1月7日、サムスン電子の昨年10~12月期業績発表は衝撃を与えた。
予想はされていたものの現実に減益決算となった。いざ、この事態に直面し、韓国社会は上を下への騒ぎ方である。IT関連では世界トップ企業のサムスンだ。主力製品のスマホ売上げが、限界を示したのである。
韓国が、唯一世界に誇れる企業はサムスンだけ。そのエース企業の業績が躓きを見せ始めた。改めて、韓国経済の底の浅さを露呈している。
日本であれば、仮にパナソニックやソニーの業績が悪化しても、せいぜい株式市場での話題に止まる。
それが、政府まで巻き込み「サムスンなしでは韓国経済がもたない」などという騒ぎ方は想像もできないのだ。これが、掛け値なしで言える韓国経済の実態である。
サムスンと言っても元々の技術は、日本の現役技術者を土日だけ雇い、高額アルバイト料で日本技術を「盗み取った」に過ぎない。
日本の日立や東芝、ソニーなどと違い「独自技術」を苦心惨憺して磨き上げた訳でないのだ。
「借り物技術」で、たまたま世界一の座をつかんだのである。その点では、中国経済と瓜二つの行動パターンである。
サムスン・現代がなければ?
韓国紙『朝鮮日報』(1月9日付け)は、韓国政府の深刻なダメージぶりを次のように伝えている。
① 「韓国政府は、(サムスンの減益によってもたらされる)経済の実態をより正確に反映させるため、サムスン電子と現代自動車を除外した経済指標を発表する準備を進めていることが分かった。
政府高官は、『サムスン電子と現代自がなければ、国内総生産(GDP)がどれだけ減少するのか、貿易収支や為替レートがどう変化するのか、下請け企業に与える影響の範囲はどの程度かなどを計量化し、複数の指標を作成している』と説明した」。
韓国の二大輸出企業と言えば、サムスンと現代自動車である。
ともに同業の日本メーカーと激しい競争を演じてきた。2008年9月リーマン・ショック後、急速は「円高ウォン安」に見舞われて、サムスンと現代自動車は有利な立場になった。
とりわけ、サムスンの場合、巨額な半導体投資を敢行して日本メーカーとの差を縮め、逆転に成功しその差を広げたのだ。
当時の論評では、韓国企業は財閥だから経営責任が明確であり、迅速な経営決定が可能、という評価が一般的であった。
「円高ウォン安」への言及はほとんどなかった。こうして、「サムスン経営神話」がつくられるとともに、日本メーカーの不甲斐なさだけが対照的に取り上げられてきた。
もちろん、サムスンの経営力は侮れないものがある。その裏には、企業レベルではどうにも動かせない為替相場の関門が控えていた。
現在では、韓国政府の企画財政部が、「円安ウォン高」を経営リスクとして掲げているほどである。韓国『聯合ニュース』(1月8日付け)、次のように報じた。
「韓国企画財政部が発表した経済動向報告書(グリーンブック)1月号で、『景気回復の兆しが徐々に強まっているものの、投資など民間部門の回復ペースが依然として弱い』との判断を示した上で、対外的なリスク要因として、米国の財政や量的緩和縮小、円安などを挙げた」。
この伝で言えば、「円高」は日本にとってはリスク要因であったのだ。
サムスンに次々と価格面で敗れた同業の日本企業は、円高ゆえに不本意な「敗戦」を強いられたのである。
もっとも、為替動向を読み切るのも経営手腕。そう言われればそれまでだが、1971年の1ドル360円は、2011年に75円まで円高になった。円相場は、40年間で約5倍への切り上げである。必死の合理化と技術開発だけでは、とうてい追いつけない。それほどの急ピッチな円高であった。
その異常円高が修正されるとなれば、日韓企業の経営環境は大転換である。
これまで日本企業が迫られてきた苦悩は、すっかりそのまま韓国企業が背負い込む形になる。形勢の大逆転である。
韓国経済が、苦境に立つのは火を見るよりも明らか。日本を「軍国主義」と言って批判する。そんな経済的なゆとりは完全に消え失せたのだ。
むしろ、日本との関係修復が最大の課題になった。「告げ口」外交は、もはや終焉のはずである。
② 「企画財政部(省に相当)関係者は、『韓国経済はサムスン電子と現代自に過度に依存しており、それにより統計がゆがめられる錯視現象が起きているとの指摘がある。
政府としてもそれがどの程度かを確認する必要があると考えた』と述べた。企画財政部は2社を除いた指標のみを作成するのではなく、サムスングループと現代自グループを除いた指標も作成中だ。
作成作業は早ければ今月末にも終了する予定で、大統領府(青瓦台)に報告される。企画財政部関係者は、『結果を公表するかどうかはまだ決まっていないが、対外的に大きな波紋を広げる可能性があるため、慎重に決定したい』と述べた」。
サムスンと現代自動車は、「円高ウォン安」を踏み台にして世界市場へと打って出られた。
この肝心の「円高ウォン安」をすっかり忘れてしまい、あたかも韓国経済の実力が向上したという「錯視現象」をもたらした。
それが、「日本蔑視」「中国尊敬」という倒錯した感覚を韓国中に植え付けてしまった。
だが、韓国経済からサムスンと現代自動車の経済活動を除外して、「裸」の韓国経済の実力を計量する試みを韓国政府が始めるのだ。
その結果は、今からだいたい予測できる。
前記の2社のみならずそれぞれのグループまで除外したデータが揃えば、韓国のみならず世界中が「卒倒」しかねないものになろう。
つまり、サムスンと現代自動車のへの過度の依存が明白になるのだ。それは同時に、過去の「円高ウォン安」効果が莫大であった証拠になろう。
サムスンの利益に変調が見られることは、上記のごとく韓国経済にとって「国難」にも等しい災難である。
そこで、浮かび上がってきたのは日本との「復縁」である。日本との結びつきを強めて、韓国の支え棒にしようという狙いである。
韓国は、日本の「歴史認識」を問題にして中国へ接近している。
韓国経済の屋台骨が揺れ始めている現在、感情論を捨てて、「実利」を優先して日本との関係強化への動きが始まっている。
それを先導しているのは韓国二大紙の『中央日報』である。同紙は、サムスン系の新聞である。
サムスンの業績がぐらつき始めた状況下で、次の手を模索し始めた。そういう解釈が成り立つのだ。
浮いているのは朴大統領一人
『中央日報』(1月9日付け)は、「韓国国民が日本を見る目は現実的」と、次のように論じている。
③ 「峨山政策研究院世論研究センターが、安倍首相の靖国訪問直後に実施した世論調査の結果をみると、
『日本との積極的関係改善のために大統領が積極的に動くべき』(57.8%)という意見が『必要ない』(33.8%)より多かった。
特に20代の場合、69%が首脳会談に同意し、60代以上(38.1%)と30ポイント以上の差を見せた」。
安倍首相の靖国参拝直後の世論調査結果である。韓国は、国を挙げて「日本軍国主義」を批判した。
その底流では、日本への「期待感」ものぞかせており、きわめて興味深い内容である。
韓国の置かれている国際情勢の厳しさを肌で感じる結果、中国依存への警戒感を滲ませた内容だ。
こうなると、朴大統領一人が中国へ「熱」を上げている。
そう理解できる内容である。年齢的には20代の人々が7割も日韓首脳会談に賛成している。
60代以上になると賛成派は4割弱に減る。これは、日本植民地での経験を家族から聞かされてきた影響にちがいない。
④ 「国民は、『安倍首相が周辺国を考慮し、靖国を訪問するべきでない』(87.6%)という意見が圧倒的で、日本の安保の役割拡大についても否定的(66.8%)な意見が肯定的(18.9%)な意見の3倍を超えた。
国民が日本の歴史認識に対する不信と集団的自衛権追求など軍事大国化を懸念していることを表している。
にもかかわらず、『首脳会談を開くべき』(49.5%)という回答が、『首脳会談に反対』(40.7%)より多かった。
特に、中国の浮上を考慮し、韓日安保協力が必要だという回答は63.9%にのぼった。『必要ない』という回答は26.2%だった」。
安倍首相の靖国参拝には反対であるが、日韓首脳会談を開くべきである、とする意見は5割弱もあるのだ。
無論、首脳会談反対派を上回っている。朴大統領が首脳会談に慎重であるにもかかわらず、国民の側は日韓関係をこのままにしておいてはいけない。そう判断しているのである。
大統領よりも、国民の方がはるかに日韓関係の重要さを知っている。皮肉な結果と言うほかない。
⑤ 「峨山政策研究院世論研究センターは、『安倍首相の靖国神社参拝直後だが、国民の10人に6人は日本との積極的な関係改善を望んでいる』とし、『国民が日本を“憎いのは憎いが、必要なら関係改善するべき”という現実的かつ戦略的な判断と解釈できる』と話した。
専門家らは、韓国が主導する新北東アジア戦略のために、韓日関係を復元し、韓日米協調を固め、中国に振り回されないことが重要だと口をそろえる。整理すれば、『親米、連中、用日』戦略と要約できる」。
ここに集約されている韓国世論は、韓国メディアが過激に日本批判する姿と異質である。
したたかな実利的側面が浮かび上がってくるのだ。日本を憎んではいるが、韓国の立地条件から見て日本との協力は必要不可欠である。
こう結論を下している。「韓日関係を復元し、韓日米協調を固め、中国に振り回されないことが重要だと口をそろえる」とは、朴大統領も舌を巻くほどの健全な外交感覚である。
この外交路線は、私もこのブログで主張してきた点である。韓国が安全保障の砦を固めるには、日米韓の一体化を前提にする。
日韓がいがみ合っているのでは、これら三カ国の一体化など実現するはずもない。
韓国国民は、明らかに中国の浮上に警戒の目を向けている。
朝鮮戦争では、中国義勇軍が北朝鮮軍とともに韓国の国土を蹂躙したのである。
その許し難い過去を思い出せば、日本批判以上に中国を嫌って当然である。
朴大統領は何を間違えたのか、日本を嫌い中国に微笑を送る。真逆の行動をしているのだ。
結論として、「親米、連中、用日」戦略を提唱している。
「親米、連中、用日」など、聞き慣れない言葉であろうから、詳細は、以下にて説明したい。
前もって説明すれば、米国と親密にし、中国と連携し、日本を重視する、ということである。
『中央日報』(1月3日付け)は、次のよう伝えた。
⑥ 「朝鮮が主権を奪われる25年前の1880年。
日本駐在清国公署参賛(外交官)の黄遵憲は修信使として行った金弘集(キム・ホンジプ)に、『朝鮮策略』(注:開港期にロシアの南進政策に対応し、朝鮮・日本・清国の3カ国がとるべき外交政策を書いた本)として知られる『私擬朝鮮策略』を提示した。
主旨は、『親中国、結日本、連米国』の策略だった。
ロシアを警戒する清の視点が反映されたものとはいえ、白黒論理で特定国に依存していた朝鮮には新鮮なものだった。高宗と大臣らは当時、『朝鮮策略』に相当な共感を表したという。もちろん力が不足する朝鮮が活用するには難しい戦略だった」。
1880年、日本駐在清国外交官は『朝鮮策略』を提示した。
朝鮮・日本・清国の3カ国がとるべき外交政策を示したものだ。
結論は、朝鮮外交が取るべき道として、「親中国、結日本、連米国」であった。
中国と親密な関係を維持し、日本と固く結びつき、米国と提携するという内容である。この『朝鮮策略』は実現しないまま、日本の植民地となって終わった。
だが、現在もこの『朝鮮策略』の基本精神は生きている、としている。韓国が安全保障を維持するために、後のパラグラフで取り上げる「親米、連中、用日」として『朝鮮策略』を蘇らせる。
歴史にヒントを得て、韓国の安全保障政策の必要性を説いているのだ。
⑦ 「『朝鮮策略』を見ると、『朝鮮と日本はいつも運命をともにする地政学的な関連性を持っているため、お互い補完的な姿勢を堅持しなければならない』と助言している。
時代と状況は変わったが、日本が重要だというのは韓国専門家の共通した見解だ。
安倍首相の靖国神社参拝で韓日関係は最悪の状況だが、むしろ劇的な反転を模索できるという意見もある。
孔魯明(コン・ロミョン)元外交部長官は、『安倍首相が、韓日関係の底点を利用して問題を起こした』とする。
しかし、『韓日米安保協力を考える場合、韓日関係の断絶はお互い利益にならない。それだけに大胆に考える必要がある』と述べた」。
「朝鮮と日本は、いつも運命をともにする地政学的な関連性を持っている。
お互い補完的な姿勢を堅持しなければならない」。これは、『朝鮮策略』が日本との関係で主張している点だ。
当時、日本はロシアの軍事的南下を最も警戒していた。
世界の軍事大国ロシアが朝鮮半島へ勢力拡大を進めれば、日本の安全保障上で重大な懸念を生じる。とりわけ、朝鮮政治は混乱の極みにあった。
そこへロシアが進出する危険性を未然に防ぐ。そういう目的もあって、日本は朝鮮を植民地化したのだ。ロシアが巨大軍事力を振るわなければ、日本が朝鮮を植民地にしたかどうかは分からない問題である。
当時のロシアは大陸国家でありながら、海軍の大増強を進めていた。
ロシア皇帝ニコライ2世は、シベリア東端まで延びた大陸国家としての自国領域に満足せず、極東艦隊やバルチック艦隊などの大艦隊をつくって海洋への進出を目指そうとした。
その結果、海洋国家である日本との間に摩擦が生じ、日露戦争が起こったものだ。
当時のロシアは、現在の中国の立場である。
中国も大陸国家でありながら、海軍の大増強を開始している。韓国にとって中国の海軍力大増強は危険である。
そこで、「時代と状況は変わったが、(現在)日本が重要だというのは韓国専門家の共通した見解だ」と指摘している。これは、『朝鮮策略』以来変わらない、韓国と日本の地政学的関連性がもたらすものである。
「韓日米の安保協力を考える場合、韓日関係の断絶はお互い利益にならないだけに大胆に考える必要がある」とも提言している。
対馬から韓国を眺めると天気さえ良ければ、釜山が望めるほど日韓は近接している。
対馬の住民は戦前、福岡へ行くより釜山へ買い物に行っていたほどだ。対馬には朝鮮文化の影響が随所に見られる。
日韓は古来、固く結びついていたのである。『朝鮮策略』はそれを我々に思い出させてくれるのだ。とすれば、朴大統領は力まずに、率直な対日外交姿勢を望みたい。
⑧ 「河英善(ハ・ヨンソン)東アジア研究院(EAI)理事長は、『60年間同盟を維持してきた米国との関係を維持し、中国との連帯も強化しなければいけない』とし、『韓日関係を復元し、韓日米協調を固めて中国を導いていくのが核心』と強調した。整理すれば、一種の『親米、連中、用日』の戦略だ」。
韓国は、かつての宗主国中国から大変搾取された苦い経験を持つ。
その中国へ、選りに選って日韓関係を犠牲にしてまですり寄る。そうした外交感覚は、朴大統領だけの特異なものに映るのだ。
ましてや日本批判の「告げ口外交」は、韓国の品位を貶めるほかに、韓国の安全保障を危殆に瀕させる危険な行為である。
この「常識」が、今や韓国内で多数派になってきたと言える。
「韓日関係を復元し、韓日米協調を固めて中国を導いていくのが(韓国の)核心」という結論は意味深長である。
日米韓が結束して中国を導いていくという戦略である。朴大統領の外交戦略とは完全に食い違っている。
韓国は、中国への輸出比率が高いから「親中派」になった。
そういう「即物的」視点からもたらされる中国重視・日本軽視の外交感覚は自殺的である。
中国経済は数年を待たずに深刻な事態へ突入する。
その時、韓国はどのような対応をするのか。「歴史認識」といった過去の問題を引きずって、未来の危険を事前に回避することを怠るのか。
それこそ政治の責任である。韓国は、日本への意味のない対抗心を捨てて、『朝鮮策略』の原点に戻ることが今こそ必要な時期である。意地を捨てて実利に目覚めるべきである。
それが日韓双方にとって利益になるのだ。
(2014年1月17日)