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【映画講評】日本沈没2020(2020)【1】小松左京再起動!日本沈没Netflix版が来月配信開始

2020-06-25 20:01:13 | 映画
■日本沈没再編,期待と不安と
 日本沈没というと原作に護衛艦はるな、沈没後を描く第二部に護衛艦くらま、が出ていまして特に後者は作品の重要な位置づけとなっています。

 日本沈没とその時代。北大路機関では確か十五年ほど前にも扱ったように記憶します。日本沈没2020、実は小松左京最大のSF巨編が来る七月より新たにWebアニメーションとしてNetflixより配信開始となるようでして、監督に京都をひたすら歩く作品などで有名な湯浅政明氏を招き、声優に上田麗奈さんを主演に放送へ制作がすすめられているとのこと。

 Netflix版日本沈没は2020年の東京五輪直後に首都東京が巨大地震に見舞われ、そして、という内容ともいう。しかし、Netflix版についてはここではそれほど深く触れず、日本沈没、この巨大な作品について一つの解釈を、くどくなりますがご愛敬でおつきあいいただければ幸いです。日本沈没は幾つかの小松作品と並び本人の手では完結していないのです。

 日本沈没。古さを感じないのですが1973年の作品です。ふるさを感じさせない、というものですが、青函トンネルやリニア中央新幹線建設工事に海上空港の関西国際空港という、1973年には実在していない、当時としては近未来の、しかし現在の視点から見れば既知の施設やインフラが登場しまして、なにかこう、古い作品でもそれ程古さを感じさせません。

 日本沈没、小説が発表された年に東宝映画にて藤岡弘主演で映画化されるとともに、テレビドラマ版も1974年から一時間枠が26話にわたって放映され、また当方は全くの未見なのですが1980年にはNHK連続ラジオドラマにもなっていまして、大胆に脚色した漫画版などもあり、そして2006年に再映画化、日本沈没2020はいわば、最新版の日本沈没だ。

 小松左京再起動、こう表現すべきでしょうか。一つ一つの世界は繋がっていないのですが、小松節、とでも表現するべきでしょうか、根底には単なるSF、サイエンスフィクションと一つの枠に収めるには収まりきらない哲学と理念というものが流れていまして、ある意味、小松ワールド、というべき一連の作品群への入り口として一読をお勧めしたいものが多い。

 復活の日。1964年に小松左京が発表した超大作で、致死率の高い悪性インフルエンザの原因である新型ウィルスMM-88蔓延による人間の絶滅と種としての人類の存亡を扱った壮大な物語です。この復活の日は奇しくも世界にCOVID-19新型コロナウィルス感染症が蔓延するとともに、この作品も草刈正雄主演の1980年映画版復活の日が有名となりましたが。

 MM-88,しかし復活の日は単純に、新型インフルエンザでたくさん亡くなってたいへんっ!という話題ではなく、そもそもMM-88という地球上に存在しないウィルスを原型とした生物兵器、作中では核酸兵器、人類滅亡の兵器を開発したのは何者であったのかということを全体で問いかけるとともに人類を救ったものはなにであったか、という視点があります。

 医学が人間を絶滅させ、しかし僅かにウィルスの上陸しない無菌大陸南極の観測隊員だけが生き延びたのは、結果的にではあるが、人類を絶滅させる脅威であったはずの核兵器であった、という。これは別に氏が核兵器賛同であったのではなく実際逆なのですが、人類を本来救うべき医学も運用を誤れば絶滅へ導く危険な技術となる、という一種説話的な。

 ペスト菌がイギリス細菌戦研究所にて保管されていたものが研究員に感染して、という1950年代の報道に小松左京氏が驚いた、氏は京大文学部イタリア文学専攻で、ペストについてのイタリア独自の価値観を学んでいる、ここが執筆の契機となった、とも。それでは日本沈没にも復活の日のような地学パニック以上のものがあるのではないか、といえる。

 第二次世界大戦への価値観、小松左京氏はエッセイ"やぶれかぶれ青春記"として神戸一中生徒時代に経験した第二次世界大戦というもの、特に軍国主義、この経験を著しています。戦争の是非とか、そういうものは置くとして、軍国主義、そして決戦一辺倒に凝り固まった後の判断力からの逃避という社会通念、一種の伝染する空気なのかもしれないのですね。

 やぶれかぶれ青春期。まだ入手できるようですので一読をお勧めしたいのですが、軍国ニッポンから平和ニッポンへ、日々暴力を振るっていた教師が敗戦から、もともとワタクシは平和主義者で、と豹変する、太いものに巻かれるように戦争と平和を食い物としている違和感、大人への違和感という視点から描いています。これは作風にも反映されるもので。

 地には平和を。1963年発表の短編で、短編と言うには長いか、あの八月十五日、重大放送を前に陸軍がポツダム宣言受諾拒否に成功し、本土決戦となってしまった世界で血気盛んな主人公が早期学徒動員により最前線に動員され、滅茶苦茶な本土戦の中で海岸防衛戦で部隊が全滅し、天皇座所があるという信州へ転進し続ける中の不思議が、という内容です。

 戦争はなかった。春の軍隊。いやはや小松左京の真骨頂は長編ではなく寧ろ膨大な短編にあるのですが、散逸したものもあるとのことで興味深い。しかし、戦争というものには大きく影響を、そして価値観の吐露に用いられているのですね。さて振り返って日本沈没、どんな時代か。発表は1973年、奇遇にも日本経済が戦後初の後退に入った時代でした。

 見知らぬ明日、果てしなき流れの中に、エスパイ。小松左京は1960年代半ばから後半にかけて長編をいくつも発表しているのですが、日本沈没は並行して執筆していまして、実に十年を、本人もエッセイにて、復活の日、その刊行への校了の直後あたりから書き始めた、と記しています。それだけ地学に綿密な交渉を重ねて生み出された、という大作ですが。

 日本沈没、戦後SF史の金字塔とさえいえるその執筆は1960年代後半と1970年代前半を目一杯使って執筆していまして、故に、日本沈没とその時代、という命題を考えますと安易に2020年代に共有できるものばかりではなく、1960年代、もはや戦後ではない、と呼ばれた1956年ののちの高度経済成長下、時代価値観を合わせて考えるべきとおもうのです。

 日本沈没。原作では護衛艦はるな、が日本全国民退避作戦本部の置かれる護衛艦として登場しまして、海上自衛隊の護衛艦も海洋観測支援に旧式化したという事で転用された艦艇に護衛艦たかつき型等が描かれます、そして興味深いのは架空兵器というものが出てくるのですね。もちろん架空兵器といっても東宝自衛隊のようなメーザー殺獣光線車ではない。

 よしの。アメリカ海軍のミサイル追跡艦を中古で取得した、というものや海上自衛隊が構想はしたものの実用化は行わなかった通信艦、中でも衛星中継通信に対応する大型の通信艦が描かれますし、うずしお型潜水艦を越える潜水艦かいりゅう型、かいりゅう即ち特殊潜航艇を思いだし不吉ですが登場します、陸上自衛隊にも大量に水陸両用車が配備される。

 近未来を描いた作品故に、こうしたものが描かれるのかもしれませんが、現在こそ護衛艦かが、ヘリコプター搭載護衛艦いずも型などは非常に大型となっていますが、作品世界の自衛隊も相当な規模を有していまして、全国民退避を支援する。日本沈没2020は期待すると共にどう描かれるか不安も含め、当面Netflixのみですのでソフト化を期待したいですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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