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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

朝鮮半島有事邦人救出検証(1)韓国在留邦人総数5万7000名を戦火から救出する重大任務

2018-03-06 20:03:30 | 国際・政治
■邦人救出,古くて新しい課題
 ピョンチャン五輪が平和裏に閉幕した朝鮮半島、しかし核兵器放棄を拒否する北朝鮮とアメリカの対立は平行線のままです。今回から数回に分け、最悪の場合の邦人救出を考えてみましょう。

 朝鮮半島南北対話が始まりました、韓国からの特使として趙明均統一相、鄭義溶国家安保室長、徐薫国家情報院院長が昨日5日から二日間の日程で北朝鮮へ出発、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会見等も期待されています。ピョンチャン五輪後、南北朝鮮の宥和の進展がそのまま日米韓が求める核放棄へと発展するか、非常に大きな関心事といえます。

 朝鮮半島有事と邦人救出任務は、古くて新しい問題です。韓国は我が国の隣国、経済関係の結びつきも強く実に5万7000名もの邦人が居留乃至滞在しています。朝鮮半島核危機は今回が初めてではなく、1994年朝鮮半島核危機の際には米軍による限定空爆直前までの緊張があり、万一の際にどう救出するか、自衛隊を派遣できるのか、当時からの課題です。

 邦人救出、朝鮮半島有事の可能性が顕在化する中、多くの邦人が居留し観光などで一時滞在する韓国から、安全な地域へ退避する施策は喫緊の課題です。特に韓国の首都ソウルは1000万大都市であり邦人の多くが居留や観光で滞在していますが、そのソウル都市圏が北朝鮮軍事境界線より砲兵火力の射程内に在り、万一の際には非戦闘員安全の確保が難しい。

 朝鮮半島有事の際の邦人救出任務が現実的課題として突き付けられたのが1994年の朝鮮半島核開発危機、当時の金正日政権が核兵器用高濃度プルトニウム濃縮疑惑から北朝鮮による核開発の懸念が高まり、アメリカのクリントン大統領は核関連施設による限定空爆を示唆、これに北朝鮮が激しく反論し韓国攻撃の姿勢を示した事により緊張が激化しています。

 橋本内閣は当時、朝鮮半島有事の際に四万というソウル都市圏居留邦人の救出という突然の課題を突き付けられ、海上保安庁巡視船によるソウル近郊港湾からの救出やソウルから南部の釜山への自主避難の上での釜山港からの救出、韓国政府が承諾する条件での自衛隊政府専用機による救出や在韓米軍基地からの米軍機への便乗等が検討されたといわれます。

 5万7000名の邦人が現在韓国には居留乃至滞在しています。商用や留学等の長期滞在邦人が3万8000名、観光等の一時滞在が1万9000名で計5万7000名が韓国に居留もしくは滞在しています。グローバル化により1994年当時と比較し、在留邦人の総数は増大しており、勿論緊急時には事前避難により一定の邦人は帰国するでしょうが、完全退避は難しい。

 邦人救出計画ですが、僥倖であるのはわずかとはいえ法整備が進められており、1994年当時と比較し、邦人輸送訓練も順次実施されている点です。実際、1998年のインドネシア騒擾においては自衛隊法改正に基づき航空自衛隊輸送機がタイのウタパオ空軍基地へ進出すると共に、インドネシア国内へは海上保安庁巡視船が出動し、不測の事態に備えました。

 インドネシア騒擾では当時の自衛隊法は航空自衛隊輸送機は使用出来るものの、艦船については海上自衛隊輸送艦が使用できない制約があり巡視船派遣となりましたが、その後の自衛隊法改正により可能となり、陸上自衛隊は1999年に初の邦人輸送訓練を実施し、海上自衛隊護衛艦と輸送艦、航空自衛隊輸送機と警備誘導の第一空挺団が訓練に当っています。

 アルジェリアガスプラント邦人襲撃事件は当時の邦人保護に関する重要な問題と、指摘されていた法整備の欠缺を厳しく突き付ける事となりました。当時の自衛隊法では邦人保護について、飛行場や港湾施設等指定集合施設までは邦人は戦闘地域に包囲された場合においても自力で集合しなければなりません、自衛隊が展開できない戦闘地域も含めて、です。

 安全保障協力法制、我が国では戦争法制として野党を中心に一部で反対もありましたが、この法整備により自衛隊は戦闘地域に孤立した邦人救出も合法化されています。従って朝鮮半島有事においても、戦闘地域に孤立した邦人を法律上は救出する事も可能となっています。尤も自衛隊の能力で多数の邦人救出任務が実現可能か、という論点は残りますが。

 政府は自衛隊のCH-47輸送ヘリコプターにより釜山から対馬を経由し九州まで邦人輸送を実施する方針であり、また、北朝鮮奇襲攻撃に対し米軍の反撃がひと段落する目安を72時間とし、その上で72時間を指定退避施設などシェルターに避難し安全を確保する方法等を検討しているといわれます。ただ、実際その見積や運用は可能か、検討の必要はあります。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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