北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

フランス徴兵制再開と日本徴兵制再論【5】実任務参加求める大統領と精鋭主義のフランス軍

2018-03-05 20:13:54 | 国際・政治
■フランス軍は少数精鋭主義
 今回が最終回です。フランス軍は大軍基本の編制から少数精鋭主義へ厳しい変革を成し遂げた直後であり、やはり再開は大統領自身の別の意図があるとしか考えられません。

 フランス徴兵制再開は、2月11日付朝日新聞報道によれば徴兵期間一ヶ月という短期徴募兵を治安維持任務や防衛施設での実任務に就かせる方針であるようで、フランスの制式小銃FAMASからして我が国の89式小銃と比較し極端に部品点数が少ない等の操作性の利点も無く、そもそも一か月間では執銃訓練さえままならない中、対応できるかが疑問です。

 一ヶ月間徴兵、当方は座学中心の一か月間体験入隊のような方式を採ると考えていたのですが、実任務に就かせるとのマクロン大統領の指針は驚きでした。一ヶ月では元々後方支援任務も対応できません、特に後方支援部隊こそ、浄水や電子整備に車両重整備と専門領域が深く、輸送部隊でさえ車両整備任務があり、云うほど簡単ではない中、どうするのか。

 大量の予備役を確保出来るという利点もあるようですが、一か月間、しかも執銃訓練のままならない短期間に治安任務等の実任務を付与させる指針では、有事の際に動員令を掛けた場合、人数だけは集まるでしょうが人的大量損失に直結します。その上で疑問なのは、未経験兵士大量投入と大量戦死者前提の国防をフランス社会が是認するのか、ということ。

 フランスの徴兵制再開、これはフランス軍が冷戦終結当時43万の陸軍を精鋭化により11万7000名まで縮小した上で、マクロン大統領が大統領選当時に徴兵制再開を掲げ当選し、国防力増強以上に社会の団結を名目に掲げ、云わば軍事的要求ではなく政治的社会的要求から徴兵制再開、これも一か月間という体験入隊規模の水準で復活させるというものです。

 サーバル作戦、フランス軍精鋭主義の背景には2013年にアフリカのマリ北部にて実施したすっごーい軍事行動の成功例があります。これはマリ北部において武装勢力MNLAの活動が活発化しマリ軍やECOWAS西アフリカ経済共同体有志連合諸国軍による鎮圧が不可能となり、当時のオランド大統領がマリ政府要請を受け旧宗主国として発動した作戦です。

 オランド大統領は2013年1月11日にマリのトラオレ大統領要請を受け介入を決定、第3機械化歩兵旅団長を派遣部隊司令官に任命すると共に同日から第4航空旅団による航空作戦を発動すると共に14日にはフランス本土からの派遣部隊が到着、26日には北部の要衝ガオ国際空港を空挺強襲で奪還、二日間で700kmを前進、最終的に5700名を投入しました。

 サーバル作戦では武装勢力総数は20000以上、フランス軍は海軍や空軍を含め5700名を投入し、マリ軍7000名と有志連合のチャド軍2000名と共に戦闘を展開しました。フランス軍では5名の戦死者を数えましたが、1000km以上の掃討作戦を経てマリ北部より武装勢力の一掃と武装勢力兵器貯蔵庫破壊を達成し、フランス軍の能力を世界に示している。

 第3機械化歩兵旅団長を中心に、フランス軍全軍より中隊規模で部隊を集成し派遣しましたが、即応性の高さと共に小隊規模の分散運用を戦域情報通信基盤の連携下で実施し、広大なマリ北部を旅団規模の兵力で達成できた事を意味します。空挺作戦と空中機動補給に近接航空支援下の機械化部隊長距離機動、精鋭主義を突き詰めた結晶の勝利ともいえます。

 マクロン大統領がどのようなフランス軍を想定しているかについては側聞しませんが、精鋭主義は難しい。大規模部隊を即応待機させ、戦力投射能力を整備し戦略展開に備え、その上部隊を小隊規模で分散させ一見敵中に各個撃破されかねない分散運用を行いつつも通信ネットワークで確実に火力と補給で連携した成果がサーバル作戦勝利といえるでしょう。

 一方、世界では徴兵制を維持している事例は多くはありませんが少なくもありません。スイスやオーストリアといった永世中立国は徴兵制を維持していますし、スウェーデンは再開予定、隣国韓国、中東のイスラエル等も徴兵制を維持しているほか、東欧のウクライナ、NATO加盟国ではノルウェーやデンマークにトルコやギリシャも徴兵制を維持しています。

 永世中立国のスイスやオーストリア、中立政策を採るスウェーデン等は、永世中立国即ち平和国家と誤解しそうですが、中立国は反面に万一の際に同盟国はじめ世界のどこにも防衛協力を期待できず、独力で自国の中立政策を守らなければ簡単に占領されてしまいます。この為に中立政策を掲げる国ほど、国防を重視しなければならない事情があるのですね。

 日本は平和国家ですが、国連に加盟すると共に日米安全保守条約があり、中立国ではありません。冷戦時代に日本共産党などは日米安全保障条約を廃止し国民皆兵制による人民軍創設と中立政策を掲げていました。しかし、有事の際は同盟国があり、また周辺国とは海洋を隔てて接していますので、徴兵制を施行する必要は無く、今後も無い実情があります。

 日本に徴兵制の可能性は無いのかという視点から、識者が軍事合理性から徴兵制は過去の施策であり軍事合理的に有り得ないとの見解で一致している中での、フランスにおける徴兵制再開、そして同時期にスウェーデンの徴兵制再開という二例を突き付けられますと、それでも日本に徴兵制は有り得ない、といえるのかとの問いに向き合う必要があります。

 しかし、フランスを見ますと社会の団結とテロ対策に国防相を関与させるもので、純粋にテロ対策を行うのであれば内務省憲兵隊の地方警察業務を拡大させるべきところを国防省に協力させるという構図でした。スウェーデンについては数百万という人口のみで広大な国土を警備する上での志願制の限界が理由です。共に異なる理由から始まったというもの。

 パリ警視庁や内務省が法執行機関としてフランスではテロ対策に当り、国際テロ対策はフランス外務省海自情報局DGSEの管轄です。純粋にテロ対策を考えるならばDGSE予算やパリ警視庁と内務省人員を増やすべきところを、国防省に求めた為で、実は合理性からは外れています。徴兵期間の一ヶ月も合理性から外れているが故の局限化した施策といえる。

 日本での可能性をその上で認めるならば、文部省の仕事を防衛省に押し付ける構図や総務省警察庁の職務を防衛省に押し付けるという非合理が行われる場合や、徴兵制の可能性を示唆する分裂前の民主党や過去に国民皆兵制の公約を掲げていた日本共産党のような軍事合理性を真剣に検討しない政党などが政権を目指した場合を除き、可能性は無いと言い切れるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする