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「1回転アクセル」「オープン・アクセル」「ディレイド・アクセル」「リバース・ディレイド」それぞれの定義と違い

2017-03-14 | フィギュアスケート技術と羽生選手

3月24日: タック・アクセルの動画を追加しました!

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 「Notte Stellata(星降る夜)」の羽生白鳥が跳ぶ、毎回少しずつ異なっている、優雅にアレンジされている 1回転アクセル(シングル・アクセル)は、私はとても好きです。(白鳥の演技全体が全て好きなのですが。)

 

ですから、羽生選手の素晴らしい演技に、余計な一言を加えることになりそうでなかなか気が進まなかったのですが、

羽生選手の、あの演技の中に出てくる、1回転アクセルは何と呼ぶべきなのか、について、出来るだけ正確な定義の下で書きたいと思い、できる範囲で、丁寧にみてみます。

 

スケート・カナダの後に出されたスケート関係の雑誌等では、羽生選手の白鳥の中に出てくる「1回転アクセル」が、どれも全てが「1回転アクセル」の表記で統一されていました。

 

中には、「あれはディレイド・アクセルでは?」と言う声もあったりしましたが、

実は、ディレイド・アクセルは前から、その技の定義や認知に、関係者の間でさえ混乱があったようで、それが過去の日本の解説で、きちんと説明されていたことがありました。

 

「出だしがディレイド(遅れた)な1回転アクセル」(=羽生選手が言うところの、ディレイドなジャンプ)と、いわゆる「ディレイド・アクセル」と呼ばれる技は、正確には別物なのだけど、混同されたまま広まってしまっている、という説明がされていたと記憶しています。

 

当時の同じものを見ていて記憶している方々もいらっしゃるかと思うのですが、ディレイド・アクセルを滅多に見ることがない昨今では、羽生ファンの多くの方は知らないと思いますので、当時の解説者による解説の記憶と、英語の解説書等にある「正確な定義」から、それらの違いを見てみたいと思います。

 

 

まず、これらのジャンプの、それぞれの定義について見てみます。

 

1回転アクセルは、「アクセル」ジャンプの定義に基づいて跳ぶ1回転、つまり、実際には1回転半のジャンプだということで、特に問題はないですね。

アクセルは、全ジャンプの中でも、「前向きに跳ぶ唯一のジャンプ」で、アウトサイドエッジ(刃の外側)を使って踏み切ります。 アクセル・ポールセンさんという方が最初に跳んだ人であることから、アクセルという名がついています。

(ジャンプについて、わからない人は、「フィギュアスケート技術」のジャンプの解説ページでどうぞ御確認下さい。)

 

 

次に、オープン・アクセル、についてです。

私の持っている英語の解説書(跳び方の指南書みたいな本・やや古い)に書かれている、

「オープン・アクセル」の定義は、以下のようになっています。


オープン・アクセル (The Open Axel)

「このアクセルでは、離氷の時の体勢を、少しの間維持させます。

空中に上がったら、開いた両腕を、僅かにだけ縮めて、まるで大きなビーチボールを抱えているかのような状態にします。

両腕が、空中では多少なりとも開いている状態にあるため、

着氷の時に回転を止めるのはより難しくなり、

より大きな力とコントロールが、通常のアクセルジャンプよりも必要となります。

ジャンプが高ければ高いほど、観客にはより大きなスリルが味わえます。 

このジャンプは、観客にとても好まれます。」

 

また、こちらの英語の解説ページでは、オープンアクセルはシンプルに、次のように説明されています。

 

オープン・アクセル… いくぶんか身体を開いた体勢のままで、回転が本来より不足気味で実行されるアクセル。


 

次に、ディレイド・アクセルについて、定義を見てみます。

上と同じこちらの英語解説では、こう説明されています。


ディレイド・アクセル… 跳びあがった後に、ワルツ・ジャンプの体勢をより長く維持してから、ジャンプの回転の終わりごろには、回転速度がより速まっていく、アクセル


こちらの英語の解説ページ(クリックどうぞ)では、このように説明されています。

(Delayed Axel )  It is identical to the regular axel, but there is an appearance that the rotation stops momentarily while the skaters is in the air.

ディレイド・アクセル…  普通のアクセルとそっくりだが、スケーターが空中にいる間に、回転が一瞬だけ止まったかのように見えるところが異なるアクセル。

 

私の持っている解説書では、この上の二つの文章に載った特徴を両方合わせたものが「ディレイド・アクセル」とされています。(後で詳述します)

 

さてここでちょっと先に、過去に日本の解説で、「正しいディレイド・アクセル」として説明されていた内容(私の記憶に残っている内容)を、説明してみたいと思います。

 

少なくとも羽生選手がスケートを始めるよりもは前の頃かと思われる、恐らくは20年前後~30年前の間頃だったように思うのですが、

当時の私があまり興味を持っていなかった外国人男子選手(誰だったか名前を思い出せません、本当に失礼でスミマセン)で、思わず目を見張るような、すごくカッコイイ印象的なディレイド・アクセルを跳んで、特徴のある、見事な着氷をしてみせた男子選手がいました。

 

その時に、日本のテレビでのベテラン解説者が、それを見て、

「今のが本当の、正しいディレイド・アクセルです!」という感じで声を大にして言いまして、

「ディレイド・アクセルというのは、実は、今のように、着氷の直前に、明確な空中での一時静止があってから、このように(力強く)着氷するのが正しいのであって、

そうでなくて、回転しながら普通の着氷をするものは、「出だしの遅れた1回転アクセルに過ぎない」のであって、

今現在、ディレイド・アクセルだと思われ、そう呼ばれてしまっているもののほとんどは、正確には実は、ディレイド・アクセルに なっていないんです!! 」

 

と (決して一言一句まで正確なわけではありませんけれども、) だいたいこういう内容を、

日本のベテラン解説者が、ここぞとばかりに力説されていたことがあったと記憶しています。

正確にはディレイド・アクセルではないという、「空中に上がってから回転を開始する、出だしが遅れた(=delayedになった)1回転アクセル」が、「ディレイド・アクセル」と呼ばれて認知され、広まってしまっている当時の現状に、解説者の方はお困りだった印象でした。

それで、「こういうのこそが、本当のディレイド・アクセルなんです!」と、その選手が跳んだのを見た時に、強調され、力説されたんですよね。

 

その時に、「へー!そうだったんだ…!なるほど~!」と大いに感動してしまった私は、そのジャンプの映像だけはしっかりと記憶に残っているのですが、それは、

跳びあがってから回転を始めることで、回転始めがディレイド(=delayed)になるだけでなく、回転し終え、着氷前のまだ空中にいる間に、「フッ!」という一瞬の静止状態があって、

(=両腕をバッと横に開いた、いわゆる「回転を止める」姿勢を、1回転半まわった後に、空中で行うことによって、ほんの一瞬の空中静止状態が起きる ) 

それから着氷するため、着氷のタイミングがほんの一瞬遅れたように見える(Delayed=遅れた)形になっていたのが、正しいディレイド・アクセル、と呼ばれていたと記憶しています。 

 

つまり、「正しいディレイド・アクセル」と呼ばれたそのアクセルは、

着氷直前に、止めの体勢による「空中一時静止」、すなわち「両腕を開いたポーズ」を行ってから、そのまま後方に落下するように、ズサッと、力強く印象的な着氷で終わるもので、

「明らかにただのアクセルジャンプとは違う」、「かなり特殊な技」として、誰にでも認知できる、明確な特徴のあるジャンプだった と思うのです。

 

例えば、羽生選手が良く言う、「シュッと跳んで、パッと降りる」 「シュッ・パッ」 という感じの言葉で表現するならば、

その時に「正しい」と説明された ディレイド・アクセルは、

「フワ~ン(まっすぐ方向へ離氷・長く空中を維持)」→「クルクッ(急速に1回転半・後半スピードアップ)」→ 「バッ(両手を広げて、回転の勢いを止める空中での一時静止)」→「ズサッ(両手を開いた姿勢のまま落下して力強く着氷)」

という感じで行われた技でした。

 

英語の解説書での技の説明と定義は、以下のようになっています。

  

ディレイド・アクセル (The Delayed Axel)

「 まっすぐに前方・地上から20フィートの高さの地点を目印として見つめ、前方の目印を見つめたまま(回転をかけずに)跳びあがり、両腕を離氷時の瞬間から前方で肩の高さの位置に保ったまま、空中の一番高いところに到達してから初めて回転を始めなければならない。

空中に上がりきってから、両腕と頭と足を急速に締めて回転姿勢に入り、

ここから急速にスピードアップしながら1回転半回り、通常の着氷ポジションに自然に入るより前に、1回転半を完全に回り切ってから、着氷しなければならない。

ジャンプの終わりごろ、空中での回転速度が増しているため、着氷の時には、

通常のアクセルジャンプの着氷よりも、より強い「止め」(=チェックと呼ばれる、両手を横に広げた体勢) が必要となる。」

 「 ディレイド・アクセルは、正しいテクニックとタイミングで行えば、通常の着氷体勢に入っていくより前に、アクセルの1回転半の回転を、しっかりと回り切ることが可能である。 」

 
 
と、書いてあります。(実際には跳び方の説明はもっと長い文章ですが、要約) 
 
 
ここには、空中一時静止が要件とは書いていないのですが、「着氷前に、1回転半をしっかりと回り切ってから着氷に入ること」 と「力強い『止め』(=両手を広げた体勢)が必要とされる」 ことは明確に書かれておりまして、
 
多分この点が、上の別の英語の解説文にもあった「まだ空中にいる間に一時静止したかのように見えるアクセル」と書かれ、また、昔の日本のベテラン解説者が仰っていた、
 
「回り切ってから、着氷直前に空中一時静止があるのが、正しいディレイド・アクセルであって、そうでないものは、出だしの(回転始めの)遅れた1回転アクセルに過ぎない」

と指摘していた点に該当する部分なのではないかな…?と、思われます。 
 
 
(※ 「今現在の正式な定義はこうだよ」ということがどこかで解説されて判明した場合で、ここに書いたものに間違いがある場合は、該当箇所を、謹んで訂正させて頂きます。 )
 
 

離氷と同時に回転を始める通常のジャンプと違って、空中に跳び上がってから初めて回転を始める「ディレイド(=delayed 遅れた)」になるところが、オープン・アクセルとディレイド・アクセルは共通しているのですが、

「ディレイド・アクセル」という名で呼べる技は、オープン・アクセルより長い滞空時間を、真っすぐの方向にむけて回転をかけずにギリギリまで維持する必要があるようで、さらに空中で回転を始めてからは、今度はジャンプ終わりに向かって、回転速度がスピードアップしていくのが、「ディレイド・アクセル」という技の特徴として、定義されています。

(オープン・アクセルは、回転速度の変化には言及されていません。) 

 

これらの基準で見ると、スケート・カナダのEX本番での羽生選手の、あの1回転アクセルは、

回転開始はディレイドだったとしても、ジャンプ後半の、特に着氷直前を見ると、白鳥っぽくアレンジしているせいで「普通に回転しながらの滑らかで優雅な着氷」になっているため、ジャンプ後半が明らかに定義から外れていて、正確にはディレイド・アクセルとは呼べない状態だろうと思えるのです。 

 

 スケート・カナダEX本番の演技  (動画3:00頃からのジャンプです)

 

 

かつて「正しい」「完璧」と言われたディレイド・アクセルを跳んだ選手が、いったい誰だったかを覚えていなくて、大変申し訳ないのですが、
 
ちょっと探してみた範囲で、まだそれに「近い」ように見え、当時の解説者の基準から見ても、きっと正しいディレイド・アクセルと呼べる範囲内と思えるジャンプの動画が、こちらです。 ↓
 
 
ジョセフ・ソバフチックさん   
動画の、1分17秒あたりで跳びますので、ご確認下さい。
 

 

私が見ていた「正しいディレイド・アクセル」なるものは、これよりもさらにもっと、「着氷直前に、明確な空中一時静止があった」ジャンプでしたが、

それでも、これは一応「ディレイド・アクセル」に該当するのでは、と思います。

(もっと適切なものを見つけたら、その時は差し替えるか、追加しておきたいと思います。)

 

 スケート関係の雑誌で、羽生選手の白鳥の1回転アクセルが、「ディレイド・アクセル」と書かれずに「1回転アクセル」の表記に統一されていたのは、以上のような理由では、と思います。 

 

また、私がこのブログでの、スケート・カナダの「白鳥」演技のページで、あの1回転アクセルを、最初に「オープン・アクセル」と書いておいた理由は、

本番ではなく、「公式練習」の時の1回転アクセルのジャンプを見て、当初、羽生選手が跳ぼうとしているのはオープン・アクセルなのでは?と思ったからです。

羽生選手がスケート・カナダ時の「EX公式練習」で練習していた1回転アクセルは、ディレイド・アクセルには該当せず、むしろオープン・アクセルに非常に近かったことと、「白鳥がテーマ」だと羽生選手は語っていたので、より白鳥に見えるのは、よりふんわり跳ぶオープン・アクセルだと思ったので、そう推測したまでです。

記憶に残っている「正確なディレイド・アクセル」は、私から見るとかなり男っぽいイメージで、カッコイイ技ではあるものの、あまり白鳥のイメージではなく、むしろ完全に別の鳥に見えてくる気がしたので、振付師がそう指示している可能性は極めて低いだろうと思ったのです。

 

その公式練習の時のジャンプとは、こちらです。 (スケート・カナダEX公式練習)

現地の動画主様たちが撮影したものを、使わせて頂きます。  

 

この動画、3:00あたりのところで、羽生選手が、1回転アクセルを跳んでいます。

右下の、歯車マークのところをクリックすると、「速度」という項目があり、スピードを変更できますので、

普通は「標準」となっている、そこの数字を「0.25」という、最もスローな設定に合わせてから再生してもらえれば、羽生選手の動きが、通常よりもスローにした状態で確認できます。

より正確に、羽生選手が跳んだ形がどうなのか確認できますし、細かく判明します。

(羽生選手、失礼します!)

 

ここでは明らかに全く両腕を閉じることもなく、ふんわりと開いた状態のまま(=オープン)になっており、もしディレイド・アクセルなら空中に上がってから、キュッと両腕と身体を締めなければならないのですけど、それが見られません。

着氷直前に、いわゆる「止め」=「チェック」と呼ばれる体勢で、空中で回転を止めてもおらず、だから「空中一時停止」もないですし、回転速度もほぼ一定のまま、回転しながらふんわりと優雅に着氷していますので、

これはディレイド・アクセルとは呼べず、むしろ「オープン・アクセル」に近いジャンプ になっているだろう、と私は思いました。 

(でも、だからこそ、白鳥らしく見えるのですが。)

 

もう一つ、同じ、練習の時の演技の、別の動画主様の動画を確認してみます。

同じく、動画3分頃から、羽生選手が跳びます。

こちらの映像でも、羽生選手はわずかに両腕を閉じかけただけで、広げたまま回転していて、さらには片腕だけを横に開き、回転しながら普通のアクセルのように着氷しているのがわかります。

昔の解説者が言っていた「正確な」という基準で見るならば、やはりディレイド・アクセルとは呼べないジャンプになっているだろうと、私は思いました。

だけど、このジャンプ、私は好きですね…!!とても良いと思います。

この公式練習の羽生選手の演技自体も、とても情感あふれる感じで、素晴らしいですね。(笑) 練習なので、イナバウアーを、「レイバック」なしでやっていますし、ハイドロも省略されてしまってはいるのですが、それでも見ていて思わず惹き込まれるような演技です。

 

 

次に、NHK杯の時の白鳥演技の、1回転アクセルについて見てみます。

この時は明らかに「オープン・アクセル」とは決して呼べない、両腕を途中で完全に閉じて(締めて)いる形の、1回転アクセルを羽生選手は跳んでいました。

 

日本のテレビ解説では、この時、織田さんはディレイド・アクセルだと語ってくれたのですが、確かに一番近いジャンプになっていたとは思いましたが、

ただそれでも、上に書いてきたような、昔の日本の解説者の解説による基準を思い出すと、ジャンプ前半の離氷については明らかにディレイド(=delayed)にはなっているのですが、ジャンプ後半や着氷を見ると、うーん、どうなのでしょう…?

でも、織田さんがそのように解説したのもちゃんとした理由があり、昔の解説が言っていたように、正確には「出だしの遅れた1回転アクセル」なものが、ディレイド・アクセルだと思われ、そのように広まってしまっている現状があったはずなので、今でもそれを受け継いでそのように思っている人たちが大勢いるのは判りますし、だからこそ、織田さんがそう解説したのも、特に驚きはないです。

 

ちなみに、羽生選手のこのNHK杯の1回転アクセルは、ジャンプの高さの頂点に達したあたりから、早くも「両腕も両足も開き始めている」ため、

むしろ、ジャンプの終わりごろに「ディレイド(=delayed)」要素を入れることが定義となる、

「リバース・ディレイド・アクセル」というものにちょっと近づいたジャンプになっています。

 

しかし、正しい「リバース・ディレイド・アクセル」の定義を見ると、この時の羽生選手の1回転アクセルは、正確には、ジャンプ前半部分がこれに該当しないことになるかと思います。

 

「リバース・ディレイド・アクセル」 (The Reverse Delayed Axel) とは

「delay」(遅れ)を、ジャンプの最初ではなく、ジャンプの終わりにだけ取り入れる。

(delay(遅れ)を、ジャンプの最初に取り入れているのが、ただの「ディレイド・アクセル」、逆に、ジャンプの終わりに取り入れているのが「リバース・ディレイド・アクセル」。)

離氷の時は、通常のアクセルジャンプと同じように跳びあがり、むしろ両腕と右脚を急いで引き寄せて回転体勢にもっていくことが重要で、

ジャンプの最も高い位置、すなわち、4分の3回転したところから両手と両脚を開いていき、残りの4分の3回転の間はスピードダウンさせていき、とても滑らかに流れるような着氷で終える1回転アクセルのこと。

着氷の瞬間には、既に両腕も両脚も開いた体勢でいなければならず、閉じていてはならない。 


 

また、こちらの解説では、リバース・ディレイドは、このように定義されています。

リバース・ディレイド・アクセル… 

(1回転半のうち、空中で)1回転を回り終えたあたりから、回転を解いていくアクセル。 

(ただのディレイド・アクセルとは逆に)ジャンプの回転始めのほうが、よりスピードが速く回っているアクセルのこと。

 

 結局、このNHK杯の時の羽生選手の1回転アクセルは、ディレイド・アクセルと、リバース・ディレイドを、前半と後半で合体させたような形になっているように思いました。

 

ディレイド・アクセルが、「空中に上がってから回転し始めさえすれば、それだけで ディレイド・アクセルと呼んで良い」 という基準だったら、確かに、羽生選手の跳んでいるものは、みんなディレイド・アクセルに該当することになっていくことでしょう。

しかし、全てのスケート雑誌で「1回転アクセル」と書かれていたのは、やはり正確な定義では、ディレイド・アクセルという技の名で呼ばれるための基準を満たしていないからだろうと…。

関係者が誰もディレイド・アクセルを知らない、などということは、絶対にあるはずがないですから。

 

 

羽生選手の1回転アクセルは、「優雅に、より白鳥らしく美しく魅せるため」のアレンジによる振付の影響であのような形になっていると私は思うので、

決して、「羽生選手が正確な技を跳べていない」などと言いたいのではなく、

「あのジャンプの形はどう呼べばいいのか?」という問題なだけですので、そこはどうか誤解なきよう、お願いいたします。(笑)

 

私はむしろ、正確にディレイド・アクセルを跳ばれるよりも、白鳥の演技としては、羽生選手が今現在跳んでいる形にアレンジされたもののほうが、ずっと白鳥らしいと思っていますので、演技そのものについては何も言うことはないのです。

 

 

最後に、グランプリ・ファイナル2016の時の白鳥の1回転アクセルについて見てみます。

グランプリ・ファイナル2016の「白鳥」

 

この時、羽生選手はそもそも、空中で「両腕を締めて」さえもいなくて、片腕だけを身体に引き寄せて、もう片腕だけを開いたままの状態にして回転しており、スピードアップもしていないし、空中一時静止もなく、回転途中から片腕だけを先に開ききって優雅にアレンジされていたため、回転速度(スピード)もジャンプの終わりごろにむけて、スピードが落ちてさえいますし、

回転しながら優雅に着氷していたので、やはりこれは明らかに「正確にはディレイド・アクセルではない」ジャンプになっていて、

やはり、「独自の優雅アレンジの施された、出だしを遅らせた1回転アクセル」ということになるかな、と思います。

 

オープン・アクセルは、「普通のジャンプと違って、身体を締め切らずに、いくぶんか身体が開いたままの状態で回転していればそれで良い」ようにも読める解説もあるのですが、

羽生選手のこのGPFの時みたいに、回転途中から片腕だけを完全に横に開いて、片腕は胸側に閉じているような形の場合は、一体どう判断するのか… よくわかりません。(笑)

両腕が、まるでビーチボールを持ったかのような形になっていないことは確かです。

結局、「1回転アクセル」の優雅なアレンジ版 と呼ぶのが一番無難なのかな、と思います。

 

 

 

  

こちらの雑誌のインタビューでは、羽生選手はあれを、練習の時に、空中に上がってから回転を始めるジャンプをよく跳んでいて、それを見て、振付師のデビッド・ウィルソンさんが気に入って、取り入れることになった、というエピソードを語っていました。 ↓

 

フィギュアスケート日本男子ファンブックQuadruple(クワドラプル)2017 (SJセレクトムック)
スキージャーナル
スキージャーナル

 

 

フィギュアスケートの技術の定義については、時々混乱していることがある印象というか、

指導者の流れによって、あるいは国によって、ちょっとずつ違っていたり、

うるさい点が違ったり、あるいは、定義そのものが、ある時からいきなりガラッと変わったり、ということがあるし、

また技術の定義や、評価のポイントなどで、関係者間でさえも、大きくもめていたり違っている様子も過去にはチラホラあったりしたので、難しい時があります。 

このディレイド・アクセルは、ここの解説を読む限りでは、アクセルジャンプを初めて跳んだ人である、アクセル・ポールセンさんが、アクセルのバリエーションとして跳んでいたジャンプの一つかのように読めますが、こちらの解説を読むと、オーストリアのフェリックス・カスパール選手が良いお手本だと書いてあり、でも、検索した限りでその映像は出てこないので、どのように跳んでいたのか、ちょっとわかりませんでした。

 

でも、20年前くらいの当時の日本の解説によれば、ディレイド・アクセルについては、選手やスケーターや関係者の間でさえ、かなりの誤解や混乱があったようでしたので、

私ごときがあまり余計なことには書きたくなかったのですが、

出だしがディレイドなジャンプになっている1回転アクセルと、「ディレイド・アクセル」という名で呼ばれる技とは、正確には違うのに混同されている、と解説されていた記憶がどうしても残っていたので、丁寧に書いてみたつもりです。

 

 

 

技の定義については、時々変更があったりするが難しいところです。

 

例えば、羽生選手たちが現在よく跳んでいる「1回転ループを挟んだ、3連続ジャンプ」ですが、

プルシェンコ選手の時代の頃は、この真ん中のループ・ジャンプは、「ハーフ・ループ(=半分のループ)」と呼ばれていまして、(先日、4大陸の時に、羽生選手もハーフ・ループという表現を使っていました)

その当時は「1回転ループ」とは決して認められていなかったのですが、その後、

「ジャンプの着氷の足は、左右のどちらで着氷してもよい」という重大な定義変更がされた結果、

それまでは「ハーフ・ループ」と認定だったものが、ある年からいきなり、「1回転ループ」と認定されるようになって、そう呼ばれ、得点もそのように計算されるようになりました。

このように、技術については、基準の変更や、大きな定義変更も、たまにあるので…。

 

 

羽生選手のファンである私としては、細かい定義や技の名前を気にしなければ、

あの素晴らしい「星降る夜」の演技において、その名前がなんであろうと、とても魅力的に思える、あの「1回転アクセル」はとても好きなので、私としては正直、どう呼ばれようと関係なく、演技そのものには何も問題はないです。

 

ですから、余計なことをあまり書きたくありませんでしたが、きちんと説明しておかないと、かえって皆様を混乱させそうで申し訳ないと思い、このページを作成しました。

参考になりましたら、幸いです。

 

 

さて、ここで有名なオクサナ・バイウル選手の、リレハンメル五輪EXの白鳥演技を観てみます!

 

この動画の2分40秒過ぎに跳んでいる1回転アクセルは、

これは明らかにディレイド・アクセルにはなっていなくて、もちろん、オープン・アクセルでもなく、

明らかにただの1回転アクセルなんですが、それを、優雅に美しく、白鳥っぽくアレンジした着氷になっているだけなんですよね。

羽生選手のも、これに非常に近いイメージで、特に着氷はこれと似たアレンジになっているように思います。

でも、羽生選手の1回転アクセルは、跳び始めが明らかに空中に上がってから回転を始める「ディレイド(遅れ)」の状態でスタートさせているところが、このオクサナさんのアクセルとも決定的に違うのですが、

こういうオクサナさんのような 「ただの1回転アクセルの優雅アレンジ」だけでも、演技としては十分白鳥らしくなっていて、これはこれで素晴らしいとわかると思います。

 

 

 

最後に、アクセルジャンプの、他のバリエーションの説明を載せておきます。

 

タック・アクセル (The Tuck Axel)… 

回転体勢に入りながら両腕を引き寄せる時に、両脚をも、スクワット・ポジションに引き寄せるアクセルのこと。

 

こちらの説明によれば、 タック・アクセルとは、スクワットの体勢のように、両足を曲げた状態で跳ぶアクセルのこと。

 

こちらの動画、2:35のところで、実際の「タック・アクセル」が見られます。↓ 

 

 


クロス・タック(・アクセル) (The Cross Tuck)…

基本的には、タック・アクセルと同じだが、スクワット・ポジションに両脚を曲げる時に、両脚をクロスさせるという点だけが異なる。

 

こちらの説明では、 両脚を曲げて、交差した状態で跳ぶ、アクセルのこと。


(タックアクセルとクロスタックアクセルは、定義から見ると、離氷の時にその姿勢を維持する、いわゆる「ディレイド」要素は必要なく、普通にすぐに回転を始めるアクセルの一つと見て良いようです。)



インサイド・アクセル (Inside Axel)…

左足・前向き・内側・エッジの踏切で跳びあがり、1回転半をまわって、右足・後ろ向き・外側・エッジで着氷するアクセル。


ワンフット・アクセル (One Foot Axel)…

通常のアクセルと同じように、「左足・前向き・外側エッジ」で踏み切って跳びあがるが、

踏切と同じ足である 左足で着氷し、「左足・後ろ向き・内側エッジ」を使って着氷する ところだけが、普通のアクセルとは異なるアクセル。

 

 

 

羽生選手には、より自分の理想とするイメージの演技に向けて、ますます頑張ってほしいと思います! 

 

今後の演技も、楽しみにしています!! 

 

 

※ このページに書いた内容で、間違いがある場合は、どうぞ遠慮なくご指摘下さい。

その他、訂正すべき内容等が発覚した場合は、その段階で、謹んで訂正させて頂きます。

 


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
間違いかも? (杉ねい)
2017-03-23 19:45:02
ロビン.カズンズがディレイドアクセルを飛んでいたと記憶しています。
返信する
90年代に選手だった一人 (管理人)
2017-03-24 11:15:10
>杉ねい様

コメントと情報を、どうもありがとうございました!

ただ、私が文中で書きました、「正しい」と呼ばれた見事なディレイド・アクセルを跳んだ選手の名前が、ロビン・カズンズ選手であった可能性は、ほぼゼロなのです。
私が名前を覚えていない選手、というのは、そこまで昔の選手だったわけではなく、その演技と解説を見たのが、ほぼ間違いなく1990年代だったと記憶しています。
そして、その時にプロではなくて、現役選手だった人です。

そして、これはちょっと書きにくいのですが、いわゆる頂点争いをするような「トップレベル」の有名選手ではなく、そこまで有名ではなかった選手だったように思うのです… もちろん、テレビには映るレベルの選手だったわけですが。
技術が非常にしっかりしていたわけですので、旧ソ連系の選手だった可能性が高いような気もしていますが、どうだったか…。

ロビン・カズンズ選手は、1980年前後にトップレベルで活躍された方で、時代が違い過ぎるのです。

ディレイド・アクセルを跳んでいると言われていた人は、もちろん、歴代では大勢いたと思うのです。
問題は、「今そう呼ばれてしまっているもののほとんどは、実はディレイド・アクセルになっていない」と解説者が力説されていた点でして、
「正しい」技術で跳んでいたのは、いったい誰で、どれだったのか、ということでして…

私が見たロビン選手の演技動画のディレイド・アクセルは、空中一時静止があるかというと、ちょっと微妙になっていたシングル・アクセルで、両手を広げた「止め」とほぼ同時の感じの着氷なものでした。

でも、それでもディレイド・アクセルに該当するとは思うのですが、
文中に動画で載せたジョセフ選手のほうが、「空中一時静止」がより明確で、解説者の語っていたディレイド・アクセルの正確な定義と正確な形と呼ばれたものにより近い技になっていたと思ったので、そちらを掲載させてもらっています。

ロビン選手のもので、より良い形でのディレイド・アクセルを跳んでいる動画が見つかったら、その時は、そちらもこのページに載せていきたいと思います。

情報を、どうもありがとうございました!
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