つぶや句

夢追いおっさんの近況および思うことを気まぐれに。

思ひ出ぼろぼろ「ニャンともはや」

2006-05-25 05:50:30 | 思ひ出ぼろぼろ
私は漫画家になりたくて二十歳のときに、好きだったY先生のところへ押しかけアシスタントになった。
Y先生は当時貸本専門の漫画家で、奥さんも知る人ぞ知るの漫画家夫妻だった。
お二人は子供には恵まれなかったが、奥さんが大の猫好きで、捨て猫を見ると必ず拾ってきたものだ。
一番長くいたのが「ニャロメ」というメス猫で、三毛猫だった。
ニャロメはきれいな顔立ちをしていて、けっこうすばやく野性的だった。
ある日、庭に穴を掘るモグラを取ってきて見せてくれたのには驚いてしまった。
そんなニャロメにも恐るべきことが起こったのである。
私は近くに住んで通っていたのだが、その日玄関のドアを開けると、見知らぬ猫がニャロメに乗っかっているではないか。
「エッ」と驚いて見ると、猫というにはあまりにもデカく、色は灰色で短い首に座った顔には鋭い目がランランと輝いている。まるで山猫である。
私が玄関に入っていっても逃げようともしない。よく見るとそいつはニャロメの首をガブリと噛んでいるのだ。「こいつ!」とちょっと怖かったが首根っこをつかまえて引き離そうとしたのだが、ビクリともしない。
かえってギョロリと睨み返すのである。すぐに奥に居た先生を呼んで二人で離そうとするが、離れない。仕方なくしばらく放っておくことにしたら、いつの間にか居なくなっていた。
どうも交尾していたらしいのだ。この後ニャロメは去勢したので、このあとそんなことはなかったが、そいつは相変わらず平気な顔でやってきて、ニャロメのご飯をペロリと食べてはどこかへ行ってしまうという図々しさであった。
先生に聞いたらあいつは二~三日前から姿を見せるようになり、玄関を開けた御用聞きが「オオ~!」と声をあげて逃げ帰ったそうな。
あいつはどうもこのあたりのボス争いをしているやつらしい。その後しばらく姿を見せないと思ったら、顔にスゴイ傷を負ってやってきた。
「あいつがあんな傷を負うなんて、ボス争いをしているやつも相当なやつだな、」と二人で話をしたものだった。
そのうちあいつはプッツリと来なくなってしまった。果たしてボス争いはどうなったのか。争いに敗れて死んだだの、大怪我をしただの、どこかへ縄張りを移しただのと、噂は聞いたが、その後あいつの姿を見ることはなかったのである。
しかしもしもあいつがボスになっていたら、ニャロメはその愛人か夫人になっていて、さしずめ極妻ならぬ極ニャン妻になっていたかも知れないのだ。
胸をなでおろしつつニャロメを見ると、何事もなかったかのように涼しい顔をしていた。人間も猫もおんなはつよ~い。
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