読書など徒然に

歴史、宗教、言語などの随筆を読み、そのなかで発見した事を書き留めておく自分流の読書メモ。

五七五の魔法をロシアに

2010-09-17 08:58:02 | Weblog
「ロシアの伝統的な詩と俳句の違いは大きい。地上の動物と鳥を比べるようなものだ」と、アレクサンドル・ドーリン(58)は言う。「明確な叙述を特徴とする西欧の詩とは違い、俳句は連想の力を効果的に使う。しかし欧米人もロシア人も、前提を説明されれば俳句の美しさを理解できる」(その通りだ。小説から詩へ、そして短歌から俳句へと文が短縮されればされるほどその美は増す。人の想像力に拠るものだ。)

 ドーリンは日本文学の専門家として、短歌や俳句、近現代詩をロシアに紹介してきた。30冊以上にのぼる著書で取り上げた対象は幅広い。『古今和歌集』や正岡子規、種田山頭火の作品をロシア語に翻訳する一方、大佛次郎の『赤穂浪士』など小説の翻訳も手がけてきた。

 07年には近現代の短歌、俳句、詩の選集『日本近代現代詩歌史』をまとめた。一方では武道研究家の顔をもち、『拳法 東アジアの武芸の伝統』はロシアや東欧で計100万部売れたベストセラーだ。

 詩の翻訳には独特のむずかしさがあるとドーリンは言う。「短歌や俳句などの定型詩には、(季語などの)決まったイメージと、一定した魔法のようなリズムがある。それをロシア語で伝えるには、ロシア語特有のリズムに置き換えることが必要だ」。彼は五七五のリズムをロシア語で表現する方法を考案し、翻訳を洗練させていった。

 この10年間のロシアはあらゆる分野で日本文化ブームだった。モスクワには400店以上の日本料理店があふれ、村上春樹の小説やオタク文化も受け入れられた。一方で、ソ連時代から日本の古典文学の翻訳は数多く、読者は現在でも数万人はいる。「たとえば、『閑(しずか)さや 岩にしみ入る 蝉の声』という句は、高校生でも知っている」とドーリンは言う。

 時代を反映して、最近の大学ではビジネス専攻が増え、日本文学専攻の大学院生はほとんどいない。「日本文学に興味をもつ人は増えているのに、プロの研究者が少なくなっている」とドーリンは残念がる。