読書など徒然に

歴史、宗教、言語などの随筆を読み、そのなかで発見した事を書き留めておく自分流の読書メモ。

わかれ目?

2010-09-14 09:10:26 | 読書
阿辻哲次さんが角川書店の「漢字逍遥」のなかで自分の子供たちが小学校を卒業するとき
「仰げば尊し」を歌わなかったため苦情を言っておられる。その歌がその頃、反動的だと言う理由だったらしい。その歌詞のどこが反動的なのかと疑問を呈しておられる。
「「思えばいと疾しこの年月、今こそ別れ目いざさらば」には、惜別の感情がなんとこまやかに表現されていることか!」と言い、どこが反動的なのかと。それはさておき、「わかれ目」とされているのはどうかと思う。ウィキペディアを引用して見ると、この「め」は、係り結びと言うもので、ある文節が係助詞によって強調され、あるいは意味を添えられた(係り)場合に、それを直接の連用要素とする述部の最後尾要素が呼応して特定の活用形に決まる(結び)という文法規則なのだ。古典日本語や琉球方言を含む一部の日本語方言で今も用いられているようだが、現代標準日本語においてはほぼ消失している。室町時代に廃れたと言う作家もいたが、これを係り結びの法則ともいう。

具体的には、「ぞ」(上代には「そ」)、「なむ」(「なん」、上代には「なも」)、「や」(反語)、「か」(疑問;単独の疑問詞の場合もある)に対しては結びが連体形、「こそ」に対しては結びが已然形になる。

例:
音 聞こゆ(終止形)→音ぞ聞こゆる(連体形)
今 別れむ(終止形)→今こそ別れめ(已然形)
つまり、「今こそ別れめ」は係り結びの例。「別れ目」と誤解される場合があるが、実際は「今まさに別れよう」というような意味になる。
小学唱歌の「我は海の子」でも、「煙たなびくとまやこそ、我が懐かしき住みかなれ」と有って、「こそ」が「なれ」に係る。
この本を校正するとき、見落としたのか。