極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

烏賊のリサージェンス

2016年09月24日 | 時事書評

 

 


             
       失敗を恐れる必要はありません。厳しい環境でしか学べないことはあまりに多い。

                                                孫 正義
 

                                               
                                                               Aug. 11, 1957 - 

 

手作りジャムつくりに熱心な彼女が、イチジクジャムの濃や香りつけにブランデーを使うと
良いということがわかったという。それはグランパなどの蒸留酒と同じだね応える。そうい
えば、数日前も、美味しそうなチーズ――モッツァレラチーズに2種のハーブを練り込みぬ
か床に漬け込んだチーズ―――が竜王のお店でつくられているからネットで調べてくれない
かと、鉛筆書きのメモを手渡しすので、ものの数分で「古株牧場  直営スイーツショップ
湖華舞」
「米糠床モッツァレラ」を表示、彼女が住所と電話番号をメモし、時間とお金の都
合をみてお出かけしようと提案する
ので快諾した。それにしてもチーズ発酵と米糠発酵のコ
ラボレートとはどんなものだろう。はずれもあるか、美味かったら我が家の名物にしよう。
そういえば、マスカットや梅など色とりどり大福なども25年前では考えられなかったが、
食品加工技術や商品開発の進展の勢いはとどまるところを知らぬようである。



話は烏賊にかわる。朝方、「イカの養殖は可能か?」と考えた。結論からいうと「飼育」レ
ベルで、アオリイカの短期養殖は存在するが、カリフォルニアヤリイカの累代飼育の成功事
例があるが一尾200ドルと目を剝く値段とか。そもそもこれを思いついたのは、中国・韓
国・台湾などの乱獲と温暖化による生息領域変化による漁獲量の逓減が原因。これも結論か
らいうとこれも心配はない――
世界の魚類もエビ・カニ、貝類なども含めた全漁獲量は1億
トン、イカ類は300万トン?68年日本はスルメイカ単一種で70万トン。アカイカを日
本・韓国・台湾などで合計35万トン(90年)も獲っている。世界各地のスルメイカ類(
アカイカ科)8種類の合計で平均30万トン、これに各地の沿岸域から獲れるケンサキイカ・
ヤリイカ類やコウイカ科を加えて250万トン。
外洋のイカ資源はおよそ2千万トン~3億
トンと幅広い試算がある。
外洋表層性イカ(おもにスルメイカ類)の潜在資源量は5000
万トン、ただし、沿岸にすむイカ類が入っていない。

 

小型のホタルイカ、深海にすむソデイカ、寒海のドスイカなど日本人は他の国の人が利用し
ない変わったイカも漁獲利用しているが、それらは世界的な統計に影響するほど大きな漁業
ではない。
それらの推定値を見るとまだイカの資源はあるが、人間が漁獲して食用に供する
には、身がおいしいことと、成体が漁業として成り立つ海の浅いところに大集群を作る性質
が条件。スルメイカ類(アカイカ科)は大規模な利用に適したイカ。沿岸のコウイカ類やケ
ンサキイカ類などは発展途上国の沿岸などでも零細な漁業でも獲れるが、その量はバカにな
らない。東南アジアや、イカをあまり食べないオーストラリア、アフリカ沿岸にはそういう
沿岸性のイカの未利用資源はまだ眠っているとされるが、ここで終われば話も終わるが、イ
カの研究は「漁業の未来」の視座だけではなく「脳化学の未来」からも行われてきた。


アオリイカの短期養殖 2011.09.20 福井県水産試験場

神経細胞の研究、脳型コンピュータの開発を手掛けた日本の脳科学者の松本元(故人)は、
イカにはぶっとい神経があり、人間の脳神経系の研究に有益なため研究対象として活のいい
烏賊育成の必要とし研究着手され、神経細胞が巨大で観察しやすいヤリイカの人工飼育法が
開発さ、さらに、イカを使った脳神経の興奮と興奮が伝達する様子を捉えるために、理化学
研究所(現・ブレインビジョン株式会社代表取締役)市川道教が超高速のリアルタイムイメ
ージング装置(超高速特殊カメラ+画像処理システム)を開発へ展開している。

軟体動物の仲間には二枚貝や巻き貝、さらに貝殻のないナメクジやウミウシが該当する。
の中にあってタコとイカの「知性」はひときわ目立ち、人類と酷似したカメラ眼で環境情報
をさぐり、大きな中枢神経系(脳)で処理している。ヤリイカでは10本の腕のつけ根にあ
る脳から、頭部の外套(がいとう)の裏に隠れた噴水孔まで信号を急送する神経細胞の枝が、
ものすごく太い(直経0.5ミリほどの巨大軸索)。これで神経興奮の伝導の仕組みを提唱
したホジキンとハクスレーは63年にノーベル賞を受賞している。生物物理学の創設期に故・
松本元はイカの水槽内飼育に取り組み成功したことは前出済み。



エソロジー(動物行動学)の開祖ローレンツは、わざわざ飼育槽の現場を見学に訪れ。他方、
巨大軸索の発見者でもあるイギリスのJ・Z・ヤングは、タコの条件づけ実験も行う。池田
譲  著『イカの心を探る-知の世界に生きる海の霊長類』はこうした代表的な業績をふまえ
ながら、タコの隠者ふうの賢さに比べて、イカは社会(泳ぎまわる仲間、とらえにくる敵、
さらに自分が育ち・行動する周囲環境)をより多く反映した「心の世界に生き」ている合同
性に開眼する。「陸の高等動物」をエソロジー(動物行動学)から「海の霊長類」のイカに
もこの理解を拡張する。サル学、小鳥の歌、社会生物学、さらにはマキャベリの『君主論』
や「赤ちゃん学」などの引用し議論の本筋と咬み合わせる。鏡を見せられたアオリイカの「
自己認識」の考察なども説得力を与えるから面白い。そういえば映画『インディペンデンス・
デイ』のエイリアンもイカ様態生物だったことを思い出す。もっとも今回の『リサージェン
ス』(Independence Day: Resurgence
)は宇宙防衛軍の結成とその活躍の話だが。

脳科学の進歩もめざましいものがあるが、それにしても、生命を説明する《遺伝子》のもつ
支配(力)の説明の不確定性、あるいは、これに関わる本質と変容について、改めて深く考
えさせられる。このため、この件は一旦残件扱いとし、前述したブレインビジョン株式会社
が保有する特許事例を掲載し切り上げる。

特開2013-089873

【符号の説明】 

10、100、200、300 受光素子  11 半導体基板  12 エピタキシャ
ル層  
13  表面ドープ層   14、15 N型領域  16、17 高濃度N型拡散領域  18     

パルス発振器  19 リセットトランジスタ  20  増幅器  21 パルス発振器  101、
103、
105、107 変調電位印加ダイオード  102、104、106、108 光電
子回収ダイオード 
400、400’、400’’、400’’’ 回路要素領域  402、
404、410、412、414、416、418、
420、422   金属配線  406、
408  配線

【要約】

少なくとも4個以上のPN接合ダイオードのなかで少なくとも2個以上のPN接合ダイオー
ドに電圧を印加して、エピタキシャル層内の静電ポテンシャルを変調する変調電位印加ダイ
オードとし、少なくとも4個以上のPN接合ダイオードのなかで変調電位印加ダイオードと
重複しない少なくとも2個以上のPN接合ダイオードは、エピタキシャル層で生成された光
電子を回収する光電子回収ダイオードとし、少なくとも2個以上の変調電位印加ダイオード
へそれぞれ印加する電圧の位相を変化させて静電ポテンシャルの勾配を制御し、光電子の少
なくとも2個以上の光電子回収ダイオードへの移動を制御することで、複数位相の同時復調
を行うことができ、かつ、素子構造が単純であって、比較的小さな撮像素子を構成する際に
も高解像度を得ることができるほどの密度に実装することが可能であり、しかも安価に製造
できる汎用の半導体製造プロセスでの製造する。

 

    

 ● 又吉直樹 著 『火花』18 

 「なっ、仲良いって言うたやろ?」と神谷さんが得意気に言った。

  机の上には、小さな鍋やコンロや大きな皿に盛られた野菜が置かれ、水炊きの準備が
 出来ていた。何故か菜箸とおたまを立てる器だけ料理店にあるような本格的なもので、
 それを見ていると、長時間持たせていたことを改めて申し訳なく思った。由貴さんは嫌
 な顔一つせず、手際よくキッチンを行き来して準備をした。

  由貴さんはとても太っていた。ふっくらという言葉では到底追いつかない、大きな体
 格だった。だが、蛍光灯の光に晒されても透き通るように肌が綺麗で、とても清潔な印
 象を与えた。そして、この人も誰かのようによく笑った。自い壁に響く女性の笑い声が
 自然と、いつかの真樹さんの笑い声と重なった。

  いつの問にか、僕達は随分と遠くまでやってきた。
  まったく先が見えない状況のなか、得体の知れない後ろめたさや恐怖に苦しみながら
 も、なんとか必死でやってきた。深夜バイトは、突然入ったオールナイトライブに出演
 するため、急に体んでクビになった。次のバイト先では年下に変なあだ名も付けられた。
 でも最近、ようやく漫才だけで食べていけるようになった。もう少ししたら、実家に仕
 送りが出来るようになるかもしれない。

  一度家族を劇場に招待するのもいいかもしれない。その後、なにか美味しいものでも
 食べにいこう。
  テレビから聴き慣れた音楽が流れてきた。僕が出演している漫才番組だった。由貴さ
 んが、「スパークス出てるよ!」と声を上げた。
  一瞬、神谷さんの顔色が変わった。由貴さんは、誰のネタでも平等に笑った。神谷さ
 んは黙って、じっと画面を見つめている。次はスパークスの番だった。出囃子が鳴り、
 画面の中で僕と相方がスタンドマイクの正面に立つ。由貴さんは、今までよりも声を出
 して笑っている。神谷さんは微動だにせず、真っ直ぐに画面を見つめている。

  笑えや。やっぱり、笑わない。胸の辺りで渦巻いていた焦燥のような感覚が、すこん
 と腹の底に落ちた途端、僕の耳元で僕の声が聴こえてきた,「こいつ、殴ったろか。
  段々、腹立ってきた。なんで、俺と同じ格好してんねん」徐々に耳元で聴こえる声が
 大きくなる。僕達のネタが終わった。
  由貴さんは、面白かったと言って、僕達のネタが終ってからも思いだしてまで笑っ
 いた。一方の神谷さんは、一言もも発さずに一点を見つめている。

 「駄目ですかね」神谷さんに問いかけた僕の声は震えていた。
         
  神谷さんは鍋の灰汁を取りながら、「せやな、もっと徳永の好きなように面白いこと
 やったったらいいねん」と、無邪気な言葉をつぷやいた。
  神谷さんが誤って灰汗取りの柄の部分を下にして器に突っ込んでしまったので、僕
 神谷さんの問にスタンドマイクが立ったようなあんばい按排になった。

 「出来ないんですよ」

  頭に血液がのぼっていく感覚があった。
  出来ないのだ,神谷さんが、この漫才を面白くないと言うのなら、もう僕には出来
 い。

  僕は神谷さんとは違うのだ。僕は徹底的な賢端にはなりきれない。その反対に器用
 もなち回れない,その不器用さを誇ることも出来ない。嘘を吐くことは男児として
みっ
 ともないからだ。知っている。そんな陳腐な自尊心こそみっともないなどという
平凡な
 言葉は何度も間いてきた。でも、無理なのだ。最近は独りよがりではなく、お
客さんを
 楽しませることが出来るようになったと思っていた。妥協せずに、編さず
に、自分にも
 嘘を吐かずに、これで神谷さんに褒められたら最高だと一人でにやつい
ていた。昔より
 も笑い声を沢山聞けるようになったから、神谷さんの笑い声も聞ける
んじやないかと思
 っていた。でも、全然駄目だった。日常の不甲斐ない僕はあんなに
も神谷さんを笑わす
 ことが出来るのに、舞台に立った僕で神谷さんは笑わない。

  神谷さんが、何を見て、何を面白いと思っているのか、どうすれば神谷さんが笑っ
 くれるのか、そんなことばかり考えていた。美しい風景を台なしにすることこそ
が、笑
 いだと言うのなら、僕はそうするべきだと思った,それが芸人としての正しい
道だと信
 じていた,

  僕は本当に自分に嘘を吐かなかっただろうか。

  神谷さんは真正のあほんだらである,日々、意味のわからない阿呆陀羅経を、なぜ
 人を惹き付ける美声で唱えて、毎日少しのばら銭をいただき、その日暮らしで生き
てい
 る。無駄なものを背負わない、そんな生き様に心底憧れて、憧れて、憧れ倒して
生きて
 きた。

  僕は面白い芸人になりたかった。僕が思う面白い芸人とは、どんな状況でも、どん
 瞬間でも面白い芸人のことだ。神谷さんは僕と一緒にいる時はいつも面白かった
し、一
 緒に舞台に立った時は、少なくとも、常に面白くあろうとした。神谷さんは、僕の面白
 いを体現してくれる人だった。神谷さんに憧れ、神谷さんの教えを守り、僕は神谷さん
 のように若い女性から支持されずとも、男が見て面白いと熱狂するような、そんな芸人
 になりたかったピ晋い訳をせず真正面から面白いことを追求する芸人になりたかった。
 不純物の混ざっていない、純正の面白いでありたかった。

  神谷さんが面白いと思うことは、神谷さんが未だ発していない言葉だ。未だ表現して
 いない想像だ。つまりは神谷さんの才能を凌駕したもののみだ,この人は、毎秒おのれ
 の範鴫を越えようとして挑み続けている。それを楽しみながらやっているのだから手に
 負えない。自分の作り上げたものを、平気な顔して屁でも垂れながら、破壊する。その
 光景は清々しい。敵わない。

  いつか誰かが言っていた。神谷は逃げているだけじやないかと。違う。何もわかって
 いないと思う。神谷さんは、自分が面白いと思うことに背いたことはない。神谷さんは「
 いないいないばあ」を知らないのだ。神谷さんは、赤児相手でも全力で自分の笑わせ方
 を行使するのだ。誤解されることも多いだろうけど、決して逃げている訳ではない。

  神谷さんが相手にしているのは世間ではない。いつか世間を振り向かせるかもしれな
 い何かだ。その世界は孤独かもしれないけれど、その寂寥(せきりょう)は自分を鼓舞
 もしてくれるだろう,僕、結局、世間というものを剥がせなかった,本当の地獄という
 のは、孤独の中ではなく、世間の中にこそある。神谷さんは、それを知らないのだ。僕
 の眼に世間が映る限り、そこから逃げるわけにはいかない。自分の理想を崩さず、世間
 の観念とも闘う。

 「いないいないばあ」を知った僕は、「いないいないばあ」を全力でやるしかない。そ
 れすらも問答無用で否定する神谷さんは尊い。でも、悔しくて悔しくて、憎くて憎くて
 仕方がない。
  神谷さんは、道なんて踏み外すためにあるのだと言った。僕の前を歩く神谷さんの進
 む道こそが、僕が踏み外すべき道なのだと今、わかった。

 「そんなつもりじゃないねんで」

  僕は神谷さんの優しい声に弱い。漫才番組が終わり、テレビ画面には情報番組が流れ
 ている,由貴さんは気を使って寝室に引っ込んだようだ,

 「いや、面白くないんでしょ」

  僕は自分の人生のために、神谷さんを全力で否定しなければならない。

 「おもろないってことではないねん。俺、徳永が面白いん知ってるから。徳永やったら、
 もっと出来ると思ってまうねん」
  神谷さんは言いにくそうに小さな声で言った。

 「ほな、自分がテレビ出てやったらよろしいやん」

  神谷さんが、口を強く結ぶ音が聴こえたような気がした。

 「ごちゃごちゃ文句言うんやったら、自分が、オーディション受かってテレビで面白い
 漫才やったら、よろしいやん」

  僕が.一日いたかったのは、こんなしょうもないことだっただろうか。

 「せやな」

  神谷さんは顔を上げずに言った。

 「神谷さんと同じように、僕だって、僕だけじゃなくて、全ての芸人には自分の面白い
 と思うことがあるんですよ,でも、それを伝えなあかんから。そこの努力を怠ったら、
 自分の面白いと思うことがなかったことにされるから」

 「考え過ぎちゃうか、もっと気楽に好きなことやったらいいんちゃうか」
 「趣味やったらね、趣味やったらそれでいいと思うんですよ。でも、漫才好きで続けた
 いなら、そこを怠ったらあかんでしょ」

  神谷さんは、深く考え込む表情を浮かべたまま何も言わなかった。

 「捨てたらあかんもん、絶対に捨てたくないから、ざるの網目細かくしてるんですよ。
 ほんなら、ざるに無駄なもんも沢山人って来るかもしらんけど、こんなもん僕だって、
 いつでも捨てられるんですよ。捨てられることだけを誇らんといて下さいよ」
 「徳永、すまんな」と神谷さんは小さな声で言った。

 どうせなら、殴ってほしかった,

 「あと、その髪型って僕の真似ですよね?服装も僕の真似ですよね?神谷さん人の真似
 するのは死んでも嫌やって言うてましたよね? 自分自身の摸倣もしたくないとか偉そ
 うに言うてましたよね?それ模倣じやないんですか?」

  こんなことが言いたかった訳ではない。神谷さんの説明など開かなくても、この時に
 はもう神谷さんの気持ちがほとんどわかっていた。

 「いや、お前の髪型見てな格好良いと思って」

  それだけのことなのである。神谷さんにとっては、笑いにおける独自の発想や表現方
 法だけが肝心なのだ。髪型や服装の個性になど全く関心がないのである。定食屋で友人
 が美味しそうな飯を食っていたから、同じ物を注文したことと何ら変わりないことなの
 だ。友人と同じ定食を食べながら、誰も思いつかないようなネタを考えるのが神谷さん
 の生き方なのだ,僕達は財問から逃れられないから、服を着なければならない。何を着
 るかということが絵画の額縁を選ぶだけのことであるなら、絵描きの神谷さんの知った
 ことではない。だが、僕達は自分で描いた絵を自分で展示して誰かに買って貰わなけれ
 ばいけないのだ。額縁を何にするかで絵の印象は大きく変わるだろう。商業的なことを
 一切放棄するという行為は自分の作品の本来の意味を変えることにもなりかねない。そ
 れは作品を守らないことにも等しいのだ。

 「模倣ですやん」と言った僕の声は震えていた。

  どうしようもなく重たい空気が僕達を囲み、いつまでも、僕は動けずにいた。神谷さ
 んは、憂鬱な雰囲気のまま立ち上がると、箪笥の引き出しを開けて何かを探している。
 ガサガサと引き出しの中で音がしている。そして、何かを取り出すと勢いよく風呂場に
 入った.、
  由貴さんは寝室から出てこない。それを、有り難く思った。僕は自分の才能のなさを
 神谷さんの責任にしようとしているのだろうか。いや、違う,僕は本心を話し、みっと
 もない恥部も全て曝け出して、それを神谷さんに引っ繰り返して貰いたかったのだ。
  風呂場から出てきた神谷さんの髪型はガタガタになっていた。ハサミで坊主にしよう
 と思ったのだろうけど、耳の後ろに長い毛が残っていたりして、見ていられなかった。

 「ベッカム目指したら、水前寺清子みたいになってもうた」と言った。
 「チータにも、全くなってないですよ」と僕が言ったら、神谷さんは声を出して笑った。

  神谷さんは改めて僕に謝ると、冷蔵庫に酒を取りに行った。僕の顔を見ないようにし
 てくれていたのだろうけど、角度的に難しかったのか、腰を変に観じらせて、「あ、ち
 ゃうわ」と一人でつぶやいていた。
  そこから、どうやって家まで帰ったのか思い出せない。翌日、電話を掛けたが神谷さ
 んは出てくれなかった。メールで謝罪の文章を送ると、すぐに返信があったが、「酔う
 てて、全然覚えてないから大丈夫やで!」という文面の似合わない感嘆符が妙に哀しか
 った、

携帯電話のメールのやりとりシーンが多く出てくるのは時代の所為なのだが、うまく編集す
れば、漫才の台本のネタ本になることに気づかせてくれる。さて、次節はどのように展開し
ていくか楽しみだ。

                                  この項つづく
 

 

 

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