ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

太陽の雫

2007年12月13日 | 映画レビュー
 素晴らしい! 惜しむらくは無理に3時間でまとめてしまったこと。展開が早すぎてどうかと思う部分があったのは残念だ、ぜひとも6時間バージョンとかも作ってほしい。

 サボー監督はユダヤ人なのだろうか? ハンガリー100年の歴史を描くときにユダヤ人3代の家族史から見ようとした慧眼にまずは敬意を表する。ハンガリーでずっと差別され疎外され続けてきたユダヤ人だが、その勤勉さと聡明さゆえに出世し、時に権力者の立場にも立つ。ユダヤ人が被差別民族として抑圧されてきた弱者というだけではなく、「狡猾に」権力に擦りよったその姿もサボーは描く。虐待の裏返しのように今度は自らが権力者となる醜い姿もまた描かれる。

 ゾネンシャイン家に伝わる薬草酒のレシピの存在が物語の冒頭に提示される。そのレシピのおかげで一代で富を築いたゾネンシャイン家の男の息子イグナツがこの映画の主人公。レイフ・ファインズは、イグナツ・その息子アダム・さらにその息子イヴァン、という祖父・父・孫の3人を一人で演じる。思えば「シンドラーのリスト」でナチスの青年将校を演じて注目を浴びたレイフ・ファインズが今度はユダヤ人の役を演じるのだから興味深い。

 在日朝鮮人もそうだが、ユダヤ人も勉強のできる者は安定した生活のために医者と弁護士になりたがる。ゾネンシャイン家の優秀な息子達も例外なく医者や弁護士になっている。だが彼らは出世のためには名前を変えねばならないし、宗教も変えねばならない。生きていくために本名を隠してきた在日の人々が同じ悔しさを感じる場面だ。しかし、名前を変えて2世代経つと、新しい名前が自分にとって馴染みのものとなる。このあたりもやはり在日の若い世代と共通の感覚だ。この映画は在日コリアンや中国人には身近な問題を扱っていて、身につまされる部分が多いだろう。

 映画は前半、超スピードで19世紀末から20世紀初めの君主制の時代をかけて抜けていく。あまりの説明不足にややおいてきぼりを食う気分だが、時代がファシズム期に差し掛かる頃からはもう目が離せなくなる。一瞬で消えた社会主義革命、しかしその一瞬の時期にやはり浮き沈みを見るゾネンシャイン(ショルシュ)家の人々。主人公イグナツの弟は革命を夢見る社会主義者であり、兄弟は政治的意見を異にしてしばしばぶつかりあう。立身出世への道を歩むイグナツ、それをよく思わない妻ヴァレリーとは亀裂を生む。このヴァレリーがゾネンシャイン3代の歴史をつぶさに見る証人である。この映画の女性はとても「現代的」だ。誰もが恋愛に積極的で大胆で、その中でもヴァレリーは写真家なのだ! 20世紀初めのハンガリーの女性写真家という設定が面白い。彼女が写真家だからこそ、冷静に時代を見つめていたと言えるだろう。

 君主制とファシズムと共産主義の下で抑圧され翻弄されたユダヤ人たちの苦難の歴史は、今、光溢れる世界へと解放された。ラストシーンは明るいが、「共産主義からの解放」が果たして夢のように素晴らしい自由と繁栄を約束するのかどうか、この続きをぜひサボーに撮ってもらいたいものだと思う。

 ところで、ゾネンシャイン家に伝わる幻のレシピという遺産を3代の息子達は有効活用することがなかった。これは何を意味するのだろうか? レシピは父から受け継ぐユダヤの血の象徴だ。家宝をなくしたとき、イヴァンにはユダヤの血のしがらみが消えたのだろうか。彼は自らの才覚と運だけでこれからを生き抜くことになるという意味だろうか。(レンタルDVD)(R-15)

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SUNSHINE
オーストリア/カナダ/ドイツ/ハンガリー、1999年、上映時間 180分
監督・脚本: イシュトヴァン・サボー、製作: ロバート・ラントス、アンドラス・ハモリ、脚本:イスラエル・ホロヴィッツ、音楽: モーリス・ジャール
出演: レイフ・ファインズ、ローズマリー・ハリス、ジェニファー・エール、レイチェル・ワイズ、デボラ・カーラ・アンガー、ウィリアム・ハート