ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

アズールとアスマール

2007年12月20日 | 映画レビュー
 懐かしい既視感に満ち満ちた、極彩色のアニメーション。フランス映画だけれど、アラブ世界が舞台なのでエキゾチックこの上ない物語となっている。そして、キリスト教とイスラム教の二つの世界の融合を説く教訓に満ちた童話であるところが現代的だ。日本語版吹き替えで見たのだが、元々はフランス語とアラビア語で作られている。フランス語版でもアラビア語の部分には吹き替え・字幕ともにないという。日本語版でも同じく、わたしたちはアラビア語の台詞が一切理解できない。これはオスロ監督の実験的な企みだそうで、子どもたちに異文化に接する生の体験をさせたかったのだという。

 まず何よりも眼を見張るのがその色の美しさだ。人物や服装はのっぺりと平面的な絵で、昔の日本のアニメ映画を思い出す。装飾的な背景はあまりにもきらびやかで美しい。花火の美しさにも通じるものがある。わたしのアニメ原体験である、「サイボーグ009」のサファイアの輝きを思い出す。あれは一生忘れることのない美しい場面なのだ。映画館で見たアニメの美しさに魅せられ、映画というスペクタクルにのめりこんでいった記念すべき作品だ。

 本作のストーリーはまるで御伽噺の粗筋をなぞっているかのようにあっさりと語られ、ファンタジーの寓意性を高めている。いつの時代なのか、おそらく中世のフランスで、アラブ人乳母の赤ん坊アスマールとフランス人領主の息子アズールは兄弟のように育てられた。だが成長していくにつれて二人の境遇は遠ざかるばかり。身分の違いを見せ付けられて喧嘩も絶えない二人だった。やがてアスマールと乳母は屋敷を追い出されてしまう。

 美しい青年に成長したアズールは、乳母がいつも聞かせてくれた「ジンの妖精」の話が忘れられない。海を渡って美しい「ジンの妖精」が閉じ込められている宮殿へ行き、妖精を助けようという思いは募るばかり。とうとうある日、出奔する決心をしたアズールだったが、船が難破して見知らぬ国に打ち上げられてしまう……

 アズールという青い眼の青年の冒険譚は、異文化への無理解・偏見が間違いであること、ほんとうの知恵は多文化の融合した先に生まれること、仲間への思いやりと自己犠牲・献身が愛と幸せをもたらすことを描く教訓に満ちた物語だ。ぜひ子どもたちに見て欲しい。なによりその美しさに言葉をなくすだろう。

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AZUR ET ASMAR
フランス、2006年、上映時間 99分
監督・脚本: ミッシェル・オスロ、日本語版監修: 高畑勲、製作: クリストフ・ロシニョン、音楽: ガブリエル・ヤレド
声の出演(日本語吹替版): 浅野雅博、森岡弘一郎、香川照之、玉井碧、岩崎響