ナンバー23

　見ている間はそれなりにドキドキもしたけれど、見終わって数日経つと早くも印象が薄れている作品。シューマカー監督作は面白いものが多いから期待したんだけど、その割にはいまいちか。ただ、脚本を書いたファーンリー・フィリップスは本作がデビューというから、その割には大変凝った作品を書いたと評価できるだろう。これは「23」という数字に異様にこだわりとらわれていく男のサスペンス。

　世の中には数字に拘る人間がけっこういて、すぐに験を担ぎたがる。結婚式に渡す祝儀は絶対に奇数だしね、それも9万円とかはダメで、１，３，５，と相場が決まっている。４は不吉だとかいって嫌がるし、わたしなんて誕生日が4月4日だからわたしにとっては４はラッキーナンバーだと思っているのに、東アジアに住む多くの人はこの数字を忌み嫌い、病院なんて4号室がなかったりするもんね。

　こじつければいくらでも数字には拘ることができる。平凡な生活を送っていた動物管理局の職員ウォルターはある日、偶然古書店で妻が見つけた自費出版小説『ナンバー２３』を読み、自分の人生と酷似していることに恐怖する。作者は誰か？　小説の中にちりばめられた「23」という数字の謎は？　22章で終わっている小説の23章はどこにあるのか？　２３に拘り神経衰弱に陥るウォルター。やがて彼の周りには過去の殺人事件の匂いがまとわりつく…

　小説世界と現実世界が交互に描かれ、どちらの主人公もジム・キャリーが演じる。登場人物は小説も「現実」も同じ役者が演じていて、その差異がまた印象的。

　この映画を見ながら思い浮かんだのはつい最近読んだ、松島恵介著『記憶の持続　自己の持続』だ。「過去の私」と「現在の私」との関係としての記憶と忘却をめぐるたいへん興味深い本で、あまり書くと映画のネタバレになるのでやめるけれど、松島さんの本を理解する応用問題としても見ることができる、と感じた。

　人は自分の責任を引き受けることによって倫理的存在として自我を存立させることができるのではないか。本作はそのことを強く印象づけるラストになっている。この映画は、人間とは何か、「私」とは何か、「私」とは誰かを深く問いかける示唆に満ちた作品であり、そういう深みを秘めているのだが、残念ながらできあがった作品は安易にサスペンスに流れた嫌いがある。　

　でもまあ、面白かったです。賛否両論が分かれそうな作品。期待せずに見ましょう。（R-15）


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THE NUMBER 23
アメリカ、2007年、上映時間 99分
監督： ジョエル・シューマカー、製作総指揮： リチャード・ブレナーほか、脚本： ファーンリー・フィリップス、音楽： ハリー・グレッグソン＝ウィリアムズ
出演： ジム・キャリー、ヴァージニア・マドセン、ローガン・ラーマン、ダニー・ヒューストン、リン・コリンズ、ローナ・ミトラ

天国の日々

　まだまだアメリカが貧しかった時代、奴隷労働のように低賃金でこきつかわれる流れ者の若き労働者が夢見たリッチな世界は、果たして天国だったのだろうか？

　テレンス・マリックの映像はいつも美しい。これはもう30年近くも前の映画なのだ。リチャード・ギアもサム・シェパードも若くて爽やかだ。主人公たちが若く美しく、テキサスの麦畑が光を浴びて輝く様にも心を打たれる。製鉄所（？）での妖しげに輝く溶解した鉄の輝きといい、麦を刈り入れる労働者たちの働く姿といい、これほど過酷な労働を美しく描いた映画があるだろうか。映像が美しいだけ、よけいに彼らの労働の辛さがリアルに迫る。だからこそ、そんな生活から抜け出したいとビルが熱望するのは当然なのだ。

ビルはシカゴから南部へと流れてきた日雇い労働者。妹リンダと恋人アビーを連れて、しかもアビーをも妹と偽って3人で麦の刈り入れ作業に勤しんでいた。農場主の金持ち青年チャックがアビーに恋をして求婚したとき、彼の余命がいくばくも無いと漏れ聞いていたビルがその求婚を利用しようとしたのもむべなるかな。しかしそんな謀略結婚の危うい三角関係がうまく行くはずがなかったのだ…。


　物語はビルの妹リンダの独白で進む。少女のリンダは兄とその恋人の身に起きる幸せも悲劇もすべてを見ていた。リンダはまだ12歳ぐらいだろうか、しかしそれにしてはずいぶん冷静な観察眼で兄とその周囲の人間を見ている。

　「妹」「姉」が金持ちと結婚したおかげで毎日遊んで暮らせるようになったビリーとリンダの境遇が「天国の日々」なのだろうか？　これはたいへんに意味深なタイトルだ。遊んで暮らすうちに、偽装結婚のはずだったアビーの気持ちがどんどんチャックに傾いていく。やがてビリーは農場を去り、アビーとチャックの天国の日々が続くかに思われたが…。　

　人物の心理を表す台詞は最小限にとどめられ、美しく鮮烈な映像でその心理を表象する。ビリーが農場に帰ってきた日、麦畑はイナゴの大群に襲われるのだが、あたかもイナゴを連れてきたかのような「悪魔のビリー」をイメージさせる場面と、修羅へと変化（へんげ）するチャックを包む炎の場面は圧巻だ。ネストール・アルメンドロスのカメラが素晴らしい。若者たちのはかない野望と愛が打ち砕かれる寒々とした結末へと至るラスト10数分のシーンは目が離せない。淡々とした作風で描かれる波乱万丈の物語が残す余韻や空しさに呆然とするラストだった。

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DAYS OF HEAVEN
アメリカ、1978年、上映時間 94分
監督・脚本： テレンス・マリック、製作： バート・シュナイダー、ハロルド・シュナイダー、撮影： ネストール・アルメンドロス、ハスケル・ウェクスラー、音楽： エンニオ・モリコーネ
出演： リチャード・ギア、ブルック・アダムス、リンダ・マンズ、サム・シェパード