日々の恐怖 8月12日 遺品整理(2)
本棚の本を整理していた時だ。
一枚の封筒が本の隙間から滑り落ちた。
友人は何気なく中身を確認し、息を飲んだ。
そこには、まるで浮気の証拠のお手本のようなツーショットがあったのだ。
誰とも知れない若いの女性と、壮年の男性。
男性はもちろん、父親だった。
『 なぁに、これ?』
そう言ってヒョイと写真をつまみあげた母親に、友人は戦慄した。
母親は、ひどいヤキモチ焼きな性格だったのだ。
父の生前、あらぬ疑いでよく父を問い詰めていた。
しかし、この写真はどう見ても疑いでは済まない。
てっきり眦を上げて喚き散らすかと思ったが、母親はしばらく写真を眺めた後、大きく鼻を鳴らした。
『 もう死んでから何年も経って、今更怒るのもバカバカしいわ。
ようやくテンポよく片付き始めたんだから、こんなことで足止めされないわよ。』
そう言いながら、写真を細かくビリビリに引き裂いて、ゴミ箱に押し込んだという。
「 それを見た時ね、父はこの言葉を待っていたのか、と思ったの。
ほとぼりが冷めるというか、浮気への怒りより、片付かない苛立ちが勝るのを待ってたのよ。
だから遺品整理が進まないよう、邪魔してたんだと思うわ。」
その後も片付けは順調に進み、残すものは後わずかだという。
「 何もかも捨てそうな勢いの母が、少し怖いけどね。」
友人はそう言って笑った。
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