日々の恐怖 8月3日 ゆっくりと歩く女の人(1)
12年前の話です。
当時、俺はオカンと2人で父方の祖父母を介護していた。
もともと祖父が事故で身体障害になり寝たきり、その後介護していた祖母が認知症になり、
長男である父が引きとったものの、本人は介護する気なし。
姉は既に結婚していて、弟はその話がでた直後に遠方の専門学校に入学を決めて逃亡。
仕方なく、母と当時大学生だった俺と2人で介護することになった。
介護は想像以上にきつく、俺もオカンも交代で精神科に通いながらの介護で、夜は眠剤つかって寝ていた。
お互いギリギリのなか、俺も介護だけじゃなく家事も手伝うようになっていた。
その日、夕方にうんこもらした祖母のパジャマとシーツを洗ったものを干すタイミングを失って、
夜10時過ぎに2階のベランダで干していた。
ふと気づくと、俺と同じ高さで、うちのベランダと隣の家の隙間を、ゆっくりと歩く女の人がいた。
2階と同じ高さで歩くなんて明らかにおかしいんだが、何故か恐怖感がわかず、
” ああ、俺本格的に頭おかしくなったんだなあ・・・。”
と思ってぼんやり見ていた。
その人はそのままゆっくり横を通り過ぎて、隣の家の裏手のほうに曲がっていった。
彼女が消えてからも、
” 今のは幻覚か?幽霊か?
まあ、どっちでもかわらんか・・・。”
と妙に冷静に思って、洗濯物を全部干して、部屋に戻った。
その後、夜、ベランダで洗濯物を干していると時々その女性が通るのを見た。
精神科の医者に伝えたところ、
「 時間も時間だから、半分寝てたんじゃないですか?」
と言われて、
「 そうですね。」
と答えた。
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