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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

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☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

霧の狐道260

2009-10-11 17:49:03 | E,霧の狐道
 入院した次の日に、看護婦さんに病院の中を案内してもらったとき、玄関は一箇所で人の流れはそこに集約されると看護婦さんが言っていた。
怪しい人が入って来ないように、門衛さんと玄関の案内で眼を光らせていると言う話だった。
もっとも、案内されたときに見た玄関の外の景色は、玄関口の大きなガラス越しにチラッと見ただけだった。
 次に、俺はオデコを窓ガラスに付けたまま上目遣いに上を見た。

“ 見えないな・・・。”

青い空は見えるが、角度的に建物の屋上は見えない。

“ 今、誰か落ちて来て眼が合ったら怖いよな・・・。”

碌でも無いイメージしか浮かばない。
 俺は上目遣いのまま、眼を左右に動かす。

“ どっから、どう向きに落ちたのかな?”

分からないまま、視線は雲が所々浮かんだ青空を左右する。

“ 何処か、分からないな・・・・。”

これは龍平に詳しく聞いて見るしか手は無い。





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霧の狐道259

2009-10-06 18:46:10 | E,霧の狐道
 俺は窓にオデコをくっ付けて、窓の真下を見ようとした。
でも、建物の真下は、窓を開けて乗り出さないと見えない。
 ちょうど真下は見えなかったが、病院の建物に沿って遥か下に、建物に垂直に駐車場の白い線が付けてあり、その白い線の間に自動車が建物の方に頭を向けて何台も止まっていた。
利用者が外来か職員かは分からないが、空きも無くズラッとたくさんの自動車が停めてある。
その一つ一つの自動車全体は見えないが、自動車の尻の先の並びだけは見えた。
ちょうど、おもちゃのミニカーの尻が箱からはみ出したみたいな感じだ。

 俺は病院の敷地から、徐々に外の世界を眺めた。
建物から順に外に辿ると、自動車の駐車場、駐車場の通路道、低い木々が左右に繋がって、その向こうが金網のフェンス、フェンスの外は2mぐらいの小さいドブ川があって、その向こうに太めの道が左右に走っている。
 幹線道路なのか、たくさんのちっこい自動車たちが、引っ切り無しに左から右へ、右から左へとセコセコ走っている。
道の向こうの並びは、病院の付属施設らしい建物やマンションや民家が並んでいる。
そのマンションの一階はコンビニや喫茶店が入っていて、人の出入りも見える。
 左に顔を振ると、病院の玄関前のような感じのところがあった。
左右に伸びたフェンスの真ん中辺りに広めの橋があって、自動車や外来の人の行き来が見える。
 橋の向こう袂にはバス停がある。

“ あれって、きっと山藤中央病院前って名前だろうな・・・。”

当たり前だが、遠すぎてバス停の丸い看板の名前は見えない。
 そして、橋の病院側の袂には門衛さんの建物が建っていて、警備員の格好をした人が人の出入りを見張っている。

“ 出入り口はあそこだな。
 俺はカラオケ趣味の爺婆の軽トラで、荷物みたいにあそこから運び込ま
 れたんだなァ・・・。
 来たときは夜だったし、体がヨレヨレだったから、病院の外の状態をゆ
 っくり見てられ無かったからなァ・・・。”






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霧の狐道258

2009-09-30 19:07:05 | E,霧の狐道
 談話室の窓からは、暖かい日差しが差し込み足元を照らしている。
窓の外に眼を遣ると、遠くの山並みが見える。
背の高いマンションが山の中腹から裾まで段々と降りてきている。

“ 落ちて行ったって言ったよな・・・。”

 俺は四角い窓に車椅子の車輪を転がして近付いた。
窓枠から見える風景は山並みから徐々に下がって、遠くから近くへと下界の家々が見えてくる。

“ 結構、大きな町だなァ。”

三筋ほど離れた斜めの大通りに面して、小振りの商業ビルが二列に並んでいる。

“ あの辺が町の中心かな。”

遠くに列車が左から右に移動して行く。

“ あの大通りは駅に繋がっているんだろうな。”

遠くから見ていたから分からなかったが、近付くと窓には白い汚れが付いていた。

“ ちょっと、窓開けてみようかな。”

俺は窓を開けようとした。

“ あらっ、開かないぞ!?”

窓には鍵が掛かっていたのだ。

“ 仕方ないな・・・。”





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霧の狐道257

2009-09-26 19:19:59 | E,霧の狐道
 俺の疑問を他所に龍平の話は続いている。

「 そやろ・・・・。
 ホンマ、あれ無かったらヤバかったかも知れんわ。
  お、あ・・・、わい、いいこと思い付いた!
 昨日、考えながら寝てしまったんやけど・・・。
 わい、ちょっと行って来るわ。
 また、後でな。」
「 おい、龍平、何処に行くんだ?」
「 ハハハ、あと、あと!」
「 おい、待てよ!」

龍平は俺を残して談話室を飛び出して行った。
 俺は、龍平が出て行ったドアが、ゆっくり閉まりつつあるのを見ていた。

“ あいつ、一体、何処に行ったんだろう?
 それに吉沢って・・・・?
 ・・・・・・・・・・・。”

ドアはす~っと隙間を埋め、ぴったり閉まった。
談話室は俺一人になった。

“ とにかく、由紀ちゃんのお守り、無くさないようにしなくっちゃ。”

俺は疑問と疑問を持ったまま、取り敢えず手に持ったお守りをポケットに仕舞った。





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霧の狐道256

2009-09-21 19:06:28 | E,霧の狐道
 龍平が、来なかったことを気にしていると思ったので俺は言った。

「 昨日、状況を聞いても、どうしていいか思いつかないし・・・・。
 だから、仕方ないし、後はお互い寝るだけだよ。
  それに、山本爺、朝、ちゃんと自分のベッドにいただろ。
 山本爺、大丈夫だったんだよ。
 いつもと変わんないよ。
 まあ、微熱が朝ちょっとあったみたいだけど・・・。
  でも、今のとこは大丈夫だって。
 あ、それから・・・・。」

俺は自分のお守りをパジャマのポケットから引っ張り出した。

「 俺のお守り、貸してやれば良かったと思いついたけど・・・・。
 龍平、行ってしまった後だったから渡せなかった。」
「 ああ、そうか・・・。
 ・・・うん、そやな。
 これはこれで、効き目があったと思うで。
 良かったな貴志、吉沢さんに貰ったお守りが役に立って。
 あの女の子、誤魔化しながらも、わいらのベッドに近付いて来なかっ
 たやん。」
「 そう、近付いて来なかったよな・・・・・。」

俺は龍平の言葉に違和感を覚えながら答えた。

“ 俺は龍平に由紀ちゃんとは言ったが、吉沢とは一度も言ったこと無か
 ったと思うけど・・・・。”




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霧の狐道255

2009-09-14 18:59:31 | E,霧の狐道
「 誰か来た?」
「 うん、そうや。
 エレベーターに近付いてみると、下から上に何かが上がって来るんや。
  で、“これってヤバイぞ”って感じがしたんで、5階の談話室に大急ぎで飛び込
 んで、扉の隙間からそっと覗いてたら・・・・。
 誰やと思う?」
「 誰?」
「 エレベーターの扉が開いて、出て来たヤツは黒い影。
 さっき、落ちて行ったヤツ。
 また、上がって来よったんや。
 それで、談話室の前を通過して、屋上の階段、上がって行きよったわ。」
「 見に行った?」
「 いや、やっぱ、どう対処していいのか分からんし、行かんかった・・・・。
 それで、とにかく貴志に状況を知らせたろと思って、もう一度、4階に降りる階
 段のところに行ったら、看護婦さんの見回りの懐中電灯の光が階段を上がっ
 て来るのが見えたんや。
  俺、一回見つかってるから、今度見つかるとヤバイことになると思て、慌てて
 5階の自分の部屋に戻ったんや。
 看護婦さん、5階の部屋も一つ一つ回って行くから見回りの時間が結構掛かる
 んや。
 それで、ベッドに入って、これはどうしたもんやろかと、さっき見たこと考えてい
 るうちに寝てしもたんや。」
「 ああ・・・、それで来なかったのか。
 来るかも知れないと思って待ってたけど・・・。
 俺も、待ってるうちに寝てしまった。」
「 そうか、やっぱり待ってたのか・・・。」




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霧の狐道254

2009-09-09 19:10:04 | E,霧の狐道
「 後ろの山本さんは・・・・?」
「 そう、それで黒い影の後ろにいた山本さんなんやけど・・。
 柵の角まで行って、躊躇してる感じやったけど、結局、屋上の方に降りて来た
 わ。」
「 そうかァ。」
「 それで、山本さんは女の子と向かい合わせになって立ってたんやけど、あれ
 は、何かの相談かなァ~。
 声とか聞こえへんにゃけど・・・。
  それで、しばらくしてな、二人がフッとこっちを向いたんや。
 何か見られてる気配を感じたんやろか。
 わい、こっちに来るって思って、ビビッてな。
 クルッと向き変えたんや。
 一瞬で、女の子が瞬間移動して、ヒュッて目の前に現れたら怖いやろ。
 それで、スリッパ脱いで、急いで階段降りて逃げたがな。」
「 スリッパ?」
「 スリッパ、履いてたらパタパタって音するがな!」
「 なるほど、さすが、さすが。」
「 変なとこで感心するやっちゃな。」
「 で、追い掛けて来た?」
「 いや、来んかった。
 期待外れで、スマンのォ~。」
「 いや、それ程でも・・・。」
「 で、5階まで降りて階段の手摺からそ~っと上を覗いて様子を窺ってたけど、
 追い掛けて来てないようやなと思たんや。
  でも、もう一度、見に行くのは止めたわ。
 見たところで、どう対処していいのか分からんやろ。
 それで、貴志に知らせたろと思って、そのまま5階から4階に階段を降りようと
 したんやけどな、5階のフロアをクルッと回ったとき、エレベーターの階の表示
 が動いてるのが見えたんや。」






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霧の狐道253

2009-09-02 20:10:42 | E,霧の狐道
 龍平と俺の目玉が、龍平の丸を挟んで向かい合う。
接近した顔のアップが目の前にある。

「 プッ!」

龍平が、俺の寄り眼に我慢出来ずに吹き出した。

「 勝った!」
「 何、すんねん!」
「 穴があったら、覗くのが人の常。」
「 で、寄り眼は何やねん?」
「 関西では、“笑わしてナンボ”って言うんだろ?」
「 まあ、それはそうやけど・・・。」

俺は手をヒラヒラしながら龍平に言った。

「 ゴメン、ゴメン!
 それで、続き、続き!」
「 分かったがな。」

俺と龍平は座り直して向かい合う。

「 で、穴から見えたんや。
 穴の正面、10mほど先におったんや。
 女の子と黒い影と山本さんやがな。」
「 何、してた?」
「 女の子、鞠をついてたわ。
 テン、テン、テンってな。
 山本さんと黒い影は、その子の横に立ってた。
  それでな、女の子が鞠を付くのを止めたんや。
 その後な、黒い影がヒョイって、屋上の柵の上に飛び乗ったんや。
 屋上の周りにグルッとな、これぐらいのコンクリートの柵あるんや。」

龍平が両手で30cmほどの幅を作った。

「 この上やがな。
 それで、次がビックリやで。」
「 何が?」
「 続いてな、山本さんも柵の上にあがったんや。」
「 えっ、山本さんも?」
「 そうやがな。」
「 めちゃ、危ない。」
「 そう、めちゃ、危ないんや。
 柵の上に腹這いになってやな。
 乗っかってるねん。
  で、黒い影が、柵の上を向こうの角っこに向かってゆっくり歩いて行くん
 や。
 その後、山本さんも続いて、ズルズルと這って行くんやで。
 しゃくとり虫みたいやがな。」
「 危なぁ~。」
「 まあ、幅があるから落ちんと移動してたけど・・・。
 それで、先に進んでいる黒い影が柵の角まで行ったら、一旦、黒い影が立ち
 止まったんや。
 柵の直角の角っこに真っ直ぐに立ってやなぁ・・・。」
「 ・・・・・・。」
「 そしてなぁ・・・・・。
 黒い影は、ゆ~っくり柵の外に倒れ込んで、落ちて行ったんや。」
「 え、落ちて行った・・・。」
「 そう、落ちて行ったんや。」




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霧の狐道252

2009-08-28 19:04:00 | E,霧の狐道
 他の患者さんが扉から入って来かけて立ち止まり、変な顔を一瞬した後、クルッと向きを変えて出て行った。

「 おまえなァ~、変なことをさせるなよなァ~。
 人格、疑われるやろ~。」
「 勝手に踊ったのは、おまえだろ。」
「 そら、まあな・・・・。
 それでやな・・・・。」

 龍平は右手を上下に振って俺を呼んだ。
で、俺は顔を近付ける。

「 ふんふん!」
「 エレベーターで5階に上がってやな、屋上への階段をそ~っと登って行っ
 たんや。」
「 それで、それで・・。」
「 階段の上にはな、小さな踊り場と屋上に出る扉があるねん。
 でもな、扉を、そ~っと押して見たんやが、開かへんねん。
  扉にはガラス窓があるんやけど、曇りガラスで向こうが見えへん。
 下手に扉をガタガタ言わせたらマズイかなっとも思ったし・・・。
 それで、ど~しょうかなァ~と思って扉を見たら、扉に嵌めてあるガラス窓
 の左端の角っこが、これぐらい欠けていて穴があるねん。」

龍平は右手の人差し指と親指で小さな丸を顔の前に作った。

「 それで、ここから外を見たんや。」

そして、龍平はその穴から俺を覗いた。

「 それで、それで・・・。」

俺は、丸から見える龍平の目玉を覗き返した。




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霧の狐道251

2009-08-23 17:46:03 | E,霧の狐道
 俺はベッドから足を下ろしながら言った。

「 わかった、散歩に行こう。」

龍平はニヤッと笑って言った。

「 ああ、天気はいいぞ。」

 俺は車椅子に乗り、龍平が車椅子の後ろを押して病室を出た。
俺と龍平は部屋を出るとき、山本爺の方を見ないようにしていた。
でも、山本爺は眼だけで俺たちの動きを追っていたのは確かだ。
 車椅子は通路を進む。

「 談話室に行くで!」
「 うん、分かった。」

 通路の突き当たりにあるエレベーターの左手前に談話室がある。
そこは通路から独立した小部屋で、扉もあるから話すにはちょうど良い。
昨日の話を早く聞きたかったが、ここは我慢だ。
俺は成り行きを龍平に任せた。
 龍平は談話室に人がいないことを確かめてから、車椅子を押して中に入った。
日が差し込み、談話室は明るい。
 外の景色が見える窓際に車椅子は進み、龍平が椅子を引っ張って来て、俺の前に座った。
俺は昨日の夜の話を聞きたくて、ウズウズしていた。
 龍平は顔を近付け言った。

「 あのな、昨日な。
 あれから、エレベーターで5階に行ったんや。」
「 それで、それで・・・。」
「 部屋に戻って寝た・・・。」
「 えっ・・・・?」

俺がキョトンとした顔をして龍平の顔を見ていたので、龍平は笑い出した。

「 アハハハハ、嘘やがな!」
「 おまえなァ~、続き、続き、つ・づ・き!!」
「 ムフフフフフフ、続きが聞きたいかァ~♪!!」
「 聞きたい、聞きたい!
 つ・づ・きィ~♪!つ・づ・きィ~♪!」
「 ア、つ・づ・きィ~、つ・づ・きィ~♪、ア、ホレ、つ・づ・きィ~♪!!
 あ、こらァ~~~~!!
 何をさすんや、思わず踊ってしもたがな。」



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霧の狐道250

2009-08-18 18:20:36 | E,霧の狐道
 俺は山本爺の声の調子を聞いて思った。

“ あ、山本爺、結構、大丈夫なんだ・・・。
 と言うことは、龍平も大丈夫ってことだな・・・。”

しばらくして、ピッと言う音がして、看護婦さんが山本爺に言った。

「 あ、ちょっと熱があるね。
 先生に言っとくわ。」

看護婦さんはそう言い放つと、呆気無く病室から出て行った。
 俺は、山本爺の方を見た。
山本爺は、充血した目だけを布団から出してこちらを見ていた。
俺と山本爺は視線が合う。

“ うっ!?”

お互い何の言葉も無い。

“ ちょっと怖いな・・・。”

俺は山本爺から眼を逸らせた。
 そこに、龍平がスタスタと病室に入って来た。

「 よっ、貴志!」
「 お、龍平!」

俺は龍平の元気そうな顔に安心した。

「 貴志、ちょっと車椅子に乗れよ。」
「 どうした?」
「 散歩に行くんや。
 外は気持ちがええで!」
「 えっ?
 ん??
 ・・・・???」

龍平は山本爺の方をチラッと見た。

“ そうか、山本爺がいる所では話が出来ないんだ。”




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霧の狐道249

2009-08-13 19:00:54 | E,霧の狐道
 トイレで用を足しながら、俺は思った。

“ ここは病院なんだ。
 誰もが、生きて退院出来るとは限らんのだ。”

 トイレを出ると、通路は静かで田中爺はもういなかった。
田中爺の体操は無事終了したようだ。
 俺はトイレから病室に戻るとき、もう一度、遠くにあるベッドを見た。
ベッドは一つ、ポツンと寂しそうに、そこにあった。
 部屋にも田中爺はいなかった。
何処かに出張したようだ。
 俺は部屋に入ってベッドに戻った。
そして、ベッドに仰向きになって、天井を睨みながら思った。

“ そう、ここは、病院なんだ・・・・。”

俺はまたもや複雑な気分になって、廊下のベッドの光景を思い出していた。

“ ガタン。”

しばらくして、ワゴンの音と共に、若い看護婦さんが病室に入って来た。
そして、山本爺のところに行った。

「 山本さん、熱を測るね。」
「 うん、うん・・・。」

山本爺の声が聞こえる。




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霧の狐道248

2009-08-10 19:03:17 | E,霧の狐道
 田中爺は、俺の視線が自分を通り越していることに気が付いて後ろを向いた。
そして、向こうを向いたまま言った。

「 ああ、一人、いってしもたんやな・・。」
「 いってしもたって・・・?」
「 ここは病院やで。
 あれは、もう、ベッドが必要無くなったんや。
 明け方まだ暗かったんやけど、ワシがトイレに行きとうなって病室を出たら、
 あそこの辺りで医者や看護婦やオッチャンやオバチャンがウロウロしてたわ。」

田中爺は俺の方に向き直って言った。

「 生きて退院出来るとは限らんがな。
 まあ、そう言うことや。」
「 ・・・・・・。」

田中爺は俺にニッと笑って、横を向いて体操を再開した。

“ 俺が寝てしまった後、そんなことがあったのか・・。”

俺は複雑な表情をして田中爺の体操をしばらく見ていた。
 田中爺は、横でボーッと自分を見ている俺に横目で言った。

「 トイレか?」

俺は自分の用事を思い出した。

「 あ、そうです。」
「 早く行かな、漏れるで!」
「 あ、ハイ。」

俺は車椅子の向きを変え、ベッドと反対側の通路の奥にあるトイレに急いだ。




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霧の狐道247

2009-08-07 18:52:33 | E,霧の狐道
   10月18日(日)

     報告

“ 朝だ、あさだァ~よォ~、朝日がのぼォるゥ~♪”

 次の日、俺は田中爺の例の歌声で眼が覚めた。
遅くまで起きていたから、かなり眠い。
 俺は山本爺のベッドを見た。
ベッドは人の形に膨れている。
少し動いたような気がした。

“ あ、山本爺、大丈夫・か・な・・?”

俺はひと安心して、次は、龍平が気になった。

“ 龍平の方は、どうなったんだろう?”

田中爺の歌声は廊下で続いている。

“ トイレに行きたいな・・・。”

俺は車椅子に乗ってトイレに行くことにした。
 病室をノコノコ出て行くと、体操をしている田中爺と眼が合った。
田中爺は体操を中断して俺に言った。

「 よっ、早いなっ!」
「 おはようです。」

俺は田中爺と挨拶を交わしながら、通路の向こうの方を同時に見た。

“ あれっ・・・?”

田中爺の向こう、遠くにベッドが一つ廊下に出ているのが見えた。

“ ベッドがある・・・。”

昨日の夜、通路をウロウロしていたときは無かったのだ。



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霧の狐道246

2009-08-02 19:30:08 | E,霧の狐道
 看護婦さんがトイレの外から言った。

「 もう、出た?」

俺は、一応、形をつけた。

「 あ、いっぱい出た。」
「 じゃ、病室に帰って、寝るのよ。」
「 うん・・・。」

俺はごそごそとトイレから出る。
看護婦さんが車椅子の後ろに回り込みながら言った。

「 消灯後は、ウロウロしないの!」
「 うん・・・。」
「 返事は、ハイよ。」
「 あ、ハイ。」
「 よろしい。」

その後、俺は車椅子ごと病室に放り込まれ、ベッドに入った。
 看護婦さんが出て行っても、俺は眠らなかった。
龍平が帰って来ると思ったからだ。
でも、いつまで経っても龍平は戻って来なかった。
俺は龍平を心配しながらも徐々に眠くなって、そのまま寝てしまった。




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