日刊イオ

月刊イオがおくる日刊編集後記

映画「ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳」を見て

2012-09-03 09:00:00 | (愛)のブログ
先日、どうしても見たかったドキュメンタリー映画をやっと見に行った。
タイトルは「ニッポンの嘘~報道写真家 福島菊次郎90歳」。
(公式サイト→http://bitters.co.jp/nipponnouso/index.html

予告編で見ることができる映像の中で90歳の福島菊次郎氏がこう言う。
「嘘っぱちの嘘っぱちを僕は具体的に知っている」
「根源的な意味で言えば、日本全体が嘘っぱち」
こう断言し、福島の原発事故の映像をみて、90歳にして37キロのやせ細った体で現場に赴き、
強風に煽られながらも写真を撮る報道写真家の姿に惹きこまれた。
どういった写真を撮り、何をみてきたのだろう、
何が彼を90歳になってでも突き動かすのだろうと知りたかった。

福島菊次郎氏は戦争に駆り出され生き残り、アマチュアカメラマンとして広島で被爆者の撮影をはじめ、
プロに転向したあとは安保闘争や三里塚闘争、自衛隊の兵器産業取材など
戦後の日本の姿を現場の最前線で写してきた報道写真家だという。

映画の中で、
大東亜戦争のことなんて全部デタラメをいっている、体験したボクが言っているのだから、
教科書も本当のことを教えないのだから、見てきた僕が書くしかない、
と古いワープロに向かう福島菊次郎氏。
それから次々にでてくる福島菊次郎氏が撮った写真たち。
その中にはチョゴリ姿の2人の少女の写真もでてきて、少し驚いた。
映画の中には広島で強制連行された夫とともに広島にきて被ばくした、
ホルモン焼き屋を営む在日朝鮮人の女性の写真も紹介されていた。
ナレーションで、
日本で被ばくをしても、
朝鮮人だからと被爆者手帳さえもらえない。
朝鮮人は人間ではないのですか―
写真とともにでてきた言葉に、自然と涙が流れた。



始めは言葉も聞きづらく、何ともかわいいおじいちゃんという印象なのだが、
カメラを構えた瞬間、90歳とは思えぬ身軽さで
眼光するどく撮影をしていく姿に並々ならぬ気迫を感じた。
福島菊次郎氏は「この国を攻撃しながら、この国から保護を受けることはできない」と
年金も拒否し、自身の原稿料だけで慎ましく暮らしている。
写真や映像を見ていくうちに、「ニッポンの嘘」と真摯に向き合い、
90歳のいまも闘い続けている一人の報道写真家にひどく感銘を受けた。
被写体に寄り添い、悩みと苦悩を自分のものとして感じながら、
カメラという武器をもって自分なりに闘い続ける反骨の一人の男性の人生は壮絶で、
今現在の日本でぜひみるべき映画のひとつだと思った。
現在、ミニシアターなどで上映中である。全国でも順次公開していくという(詳細は公式サイト参照)。

福島氏は写真だけではなく、いままで自分が見てきたものを
文字でも遺そうと執筆をつづけている。
それが「福島菊次郎遺言集 写らなかった戦後」というシリーズ。
現在3部まででていて、4部作「ヒロシマからフクシマへ」を執筆中だという。
いま熟読中なので、次回はこれについても紹介したいと思う。(愛)