60歳からの眼差し

人生の最終章へ、見る物聞くもの、今何を感じるのか綴って見ようと思う。

ローマの休日

2011年08月19日 08時55分14秒 | 映画
自宅のパーソナルTVを地デジに買い変えたのを機に、ブルーレイ・プレーヤーを付けることにした。
今まではDVDでほとんど映画を見たこともなかったが、やはり付けたからには試してみたくなる。
先週ツタヤに行ってみた。店のレンタルコナーはDVD、CD、コミック、ゲームとあり、その種類の
豊富さに圧倒されるほどである。メインに新作コーナーがあり、ワンタイトル30枚程度のカセットが
並んでいるが、大半は貸し出されている。これを見ると映画館で見る映画の減少傾向が解る気が
する。本でいえば映画館で見るのが1800円のハードカバー、レンタルDVDが410円の文庫本の
ようなものだろう。

60歳を超えてから映画もシニア料金(1000円)になったので、最近は見たい映画は映画館で
見ているから、DVDで見たい新作映画が見当たらない。店内を歩いていると棚の何列かが7泊8日
5本で1000円というコーナーになっていた。7泊8日あれば5本は見れるだろうと思い、ここから
選ぶことにした。私は映画を選ぶ時は映画館で予告編を見るか、雑誌や新聞の映画評を読んで
行くから、カセットのカバーに記載されたタイトルと俳優だけでは内容がイメージできず選び辛い。
それでも5本1000円の気やすさで、とりあえず選んでいく。ふと見ると、隅っこに「ローマに休日」
のタイトルを見つけた。この映画、大昔にテレビで見たことがあるように思う。懐かしさもあり、他に
選ぶものがないから、5本目に入れた。

「ローマの休日」、多分テレビで見たのも20年も30年も昔だったように思う。その時の印象が
強かったのか、だいたいのストーリーは覚えていた。ヨーロッパのどこかの国の王女がヨーロッパ
各国を表敬訪問し、イタリアのローマに来る。王女は自由のない王室の生活の不満から密かに
宿舎を抜け出し、ローマの街へ迷い出て行く。そこで通りかかった新聞記者と偶然に遭遇した。
彼女の素性に気づいた記者は、大スクープをモノにしようと、友人のカメラマンと一緒に王女を
ローマ観光に連れ出す。王女は永遠の都・ローマで自由と休日を活き活きと満喫する。やがて
王女と記者の距離は次第に近づいていき恋に落ちる。しかし身分の違いは如何ともしがたい。
そして二人に切ない別れが訪れる。そんな内容である。

映画を見終わって感じることがある。まずは「この映画白黒だったのだ」ということである。60年も
昔の映画だから当然であるが、反対に白黒の方がしっとりと落ち着いた雰囲気で新鮮さを感じた。
次にオードリーヘップバーンの清楚な美しさである。華奢な体つきで、如何にも王室のお姫さまの
物腰と物言いは、映画にファンタジックな雰囲気を醸し出している。そして次が舞台であるローマの
街の魅力である。当時のローマは、歴史豊かな建物の並ぶ石畳の道をクラシックな電車やバスが
走り、自動車やスクーターが行き交う。道のあちらこちらに屋台があり、開放的なカフェテラスがある。
石像で囲まれた噴水で子供達が水遊びをている。スペイン広場、パンテオン、コロッセオなど遺跡や
ローマの美しい風景も日常の中に融け込んでいた。

映画の演出は余分なセリフやアクションは使わず、二人の表情や仕草だけですべてを語っている。
主人公の二人は、最後の最後まで告白めいたことは口に出さなず相手を思いやる。それが別れる
時の身を切るような切なさにつながって行く。オープニングの舞踏会の場面での、オードリーヘップ
バーンの清楚な美しさが、クライマックスとなる記者会見の場では、彼女の表情は凛とした大人の
女のオーラがあふれていた。王女の内面の微妙な変化、デビュー早々の女優とは思えない魅力と
演技力を供えている。 すでにストーリーとしては解っているのに、ぐいぐいと映画の中に引き込まれ
ていく。やはり名画の一つなのだと改めて思った。

最近の映画はどんどん演出がどぎつくなっている。アクション映画にしても、よりスリリングな絵を
撮るためにCGを駆使し、現実にはあり得ない場面になって行く。そんな中を主人公は危機一髪で
生き残り、最後には勝利する。ドラマにしても、ここで泣かせてやるんだという意図が透けて見える。
これでもか、これでもか、と言う感じで刺激的な演出をした作品、TVドラマに少し手を加えたような
お手軽るな作品の何と多いことかと思ってしまう。次から次へ送りだされてくるこの手の娯楽映画、
もうそろそろ食傷気味である。一方、文学的な作品はやたらに暗くて重い。最近のアカデミー賞の
ハートロッカー、スラムドックミリオネア、ノーカントリー、ミリオンダラーベイビー等、2度目は見たく
ないと思うほど重い作品ばかりである。

歳を取るに従って映画への趣向も変化してくるのであろう。最近はアクションや笑いや涙ではなく、
映画に、しっとりとした落ち着き、安らぎ、情感、ユーモアなどを味わいたいと思うようになってきた。
わざとらしい壮大なストーリーや派手でスリリングなアクション、取ってつけたようなお笑いではなく、
何気ない日常の中にもいろんなドラマがある。日々の中で起こってくる不安や安らぎ、そんな変哲
もない日常を視点を変えて見つめ直して見る。なぜかそんな映画に引かれるのである。最近見た
映画では「阪急電車」というのが印象に残った。