
「新日曜名作座」とは、NHKラジオ第1で2008年4月から放送されていたラジオドラマ番組で、パーソナリティは、西田敏行さんと竹下景子さんで、2024年に西田さんが他界し、10月をもって幕を閉じたが、以降、過去放送分のアンコール放送が行われている。ひょんなことで、2008年に第2回の名作として放送された「ドナウの旅人」がこのゴールデンウィークから8回にわたって再放送されることを知った。5月4日が第1回であったが、聴き逃し配信で11日までということで、ぎりぎり第1回を聴くことができた。
「ドナウの旅人」とは、個人的に深い縁があって、まさか今になって、17年前のラジオドラマを聴くことができるなんて思ってもみなかったので、嬉しい限りである。「ドナウの旅人」は、芥川賞作家としても有名な宮本輝さんが書き下ろした長編小説で、フランクフルトを起点に、ドナウ川に沿って西ドイツからルーマニアまでの3000㎞を旅する母と年下の愛人、娘とドイツ人の恋人2組の男女の心境の変化と成長を旅の途中で出会う異国の人々、風景とともに描かれている。
1985年に自分自身フランクフルトに転勤になった時、先輩からのアドバイスで、この「ドナウの旅人」の本を持参したところから縁が始まった。小説のスタートはフランクフルトから始まるので、街の様子なども詳しく描かれているからである。小説に出てくる地名やレストランがすべて実名であることから、小説といえどもリアル感がある。現に、小説にも出てくるイタリアンレストラン「ダ クラウディオ Da Claudio」は実在のレストランで、当時は本を手に持ってレストランに来る日本人も多かったようである。自分自身二度ほど行ったことがあるが、一度は、作家の宮本輝さんとご一緒させてもらったものである。ドナウ川については、個人的にも、源流のスタート地点であるドナウエシンゲンを訪れたり、本を携帯し、小説のごとく実際にドナウ川に沿った街をいろいろ旅したこともある。ブダペストでは、小説に出てくるレストランで家族で食事をしたこともある。
宮本氏は、連載小説を書く前の1982年にドナウ川流域にある6か国をめぐる取材旅行に出かけたそうだが、後に、フランクフルトでこの取材旅行をお世話した人が自分の仕事上のお客様であるI氏であることが分かった。アテンドしていた時、I氏が先のダ・クラウディオのレストランを紹介したようである。宮本氏が来独されたとき、I氏から宮本氏を紹介していただき、取材時の懐かしいレストランでの食事にご一緒させてもらった。I氏の仲介で、1988年9月には、宮本氏の文化講演会が実現することになった。当時、支店の移転に伴い、カウンターに多目的の展示スペースを確保したプラザ施設を持っていたので、そこを講演会場とした。「小説を創る瞬間」という演目で講演をいただき、地元の日本人から好評を博した。講演会終了後は、ザクセンハウゼンという一角にあるレストランで打ち上げを行い、大いに盛り上がった。
その後、1989年10月に、テレビ朝日の開局30周年記念ドラマスペシャルとして、「ドナウの旅人」がテレビドラマ化されたが、その際にも宮本氏がフランクフルトに来られ、ドラマ化についていろいろ話をする機会もあった。主演は佐久間良子、麻生祐未、根津甚八さんで、小説とは違った臨場感があった。ドラマではフランクフルト、レーゲンスブルク、ウィーンやドナウ川周辺の街並みも随所に出てくるので、国際色豊かな旅番組としても興味深いものがあった。西田敏行さんの懐かしいナレーションを聴いて、ドナウの旅を思い出してみたい。
「新日曜名作座」HP(毎日曜午後7時25分~):https://www.nhk.jp/p/rs/D85RZVGX7W/
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