ダイアン・クルーガーが美しかった。
アンナという写譜師がオーケストラの中に潜み、
ベートーヴェンに指揮のリズムを伝えるという物語を許容できるか否かは見る側の感性なのではないでしょうか?
胸の大きく開いたドレスを上からとらえるカメラの視点は・・・。
男女の魂の結びつきが神聖でない、などと固いことを言うつもりはないのですが「第九」はもっと普遍的で神聖な作品のような気がするし、シラーの歌詞を思い出しながら聴きたいのに、薄く開かれた唇、そこから覗く歯、半開きの目・・・はかなり厳しいです。音楽に酔ってるのか、別のものなのか・・・、怖くて言葉に出来ません。
もともと彼女は「第九」の構想にも作曲にも関係ない人物ですし・・・。二人が出会った頃からベートーヴェンは内面的、宗教的にも安定していて(確かに性格は粗暴ですが)「彼女がいたから神の愛に気づかされた」とか「隣人愛」に目覚めた・・・という大きな変化はないようなので、彼女の第九参加は「単なる助っ人」という感じが・・・。
ベートーヴェンも「野獣」などと言われながら偏屈でちょっと粗暴なおじさんにしか思えない。陽気で普通の人っぽい。大きな甘えん坊みたいだ。(そしてアンナはそんな彼を包み、理解する役割)管理人的には萌えないタイプ。
それからベートーヴェンの裸体を何度も見るのは生理的に苦しい(管理人は胸毛とか駄目だし・・)。ウィーンでおしっこを漏らすベートーヴェンよりつらい。
カメラワーク、様々な描写、特に虫や自然物、小物に対する細やかさは秀逸。本当に美しい。冒頭のアンナが馬車に乗りながら、ヴァイオリンを弾く少年を見かけて音楽的霊感に満たされる(おそわれる)場面はストップモーションのようなコマの送り方で新鮮。
楽曲の取り入れ方は「不滅の恋人」の方が巧みなような・・・。
特に「第九」は父親の虚栄と野心のために虐待された少年時代とオーバーラップし、森を駆け抜けていく場面は美しく悲しく、力強い。
この世の醜さに囚われたくないかのように、逃げるように駆けていく子供の心が第4楽章に収斂していく構成は素晴らしい。
父親に杖で殴られた少年が夜空を見上げる場面は切ない。
「音楽好きの虐待された少年が・・・」という設定に異常に弱い管理人はこの場面だけでも圧倒されてしまうわけです。
どれだけ感情移入できるかが感動につながるのなら、このベートーヴェンには感情移入できませんでした。別に管理人があれこれ思うような、孤独さも迷いも苦悩もなさそうだし・・・。