母と外食に。
出かける前に一悶着。
カシミアのカーディガンを着込んでの外出は、とうてい無理。
説得するのに、一手間かかる。
外へ出ると、強い日射しと蒸し暑い空気。
「なんなのこれ! 眩しくて目が開かないわよ!」
ハイハイ、どうぞ好きなだけ目をつぶってて下さい。
「何が食べたい?」
「何でもいい、おいしもの」
「ちゃんと考えて!お魚がいいの?それともお肉?」
「お肉がいい」
ちっともちゃんと考えていないと思う。
何もかも、あなた任せの母。
いつも同じ問答を繰り返すだけのチョイス。
ま、お肉といわれれば…と、いつものフレンチレストランへ。
夏休みが終わって、久しぶりに食事でもという主婦が多いのだろうか、11時半に入店したというのに、もうほとんど満席。
なんとか最後の2テーブルのうちの1つに滑り込んだ。
賑やかな店内に、「みんなが楽しそうにお食事しているのっていいわねぇ~」とうれしそうだった母も、だんだん、「みんな声高にしゃべって、うるさいわね~」と変化していく。
でも、大きな声で、「うるさいわねぇ~!」と叫ばれるのも剣呑なので、あれこれ話題を探し的をそらすのに一苦労だった。
これで、「何が食べたいの?」と聞くと、たぶん「ステーキ」となるのだが、私は昼からステーキなんて食べたくない。
このお店は、ステーキは2人分がセットのメニューになっているので、母がステーキを頼むと自動的に私もステーキを食べなくてはいけないのだ。
なので、「ローストビーフがおいしそうよ」と、ちょっと誘導尋問。
「じゃあ、それ」(これで、私は軽いメニューが頼める!)
冷製のカッペリーニ、追加で注文したスープ、ローストビーフの温野菜添え、パン、デザート、コーヒーというけっこうヘビーなコースをきれいに平らげた。
とりあえず「食欲が旺盛というのは健康な証拠」と考えて、あれこれ文句は言うまい。
食後、いつものお持ち帰り菓子を買い物する前に、靴を買いに行った。
現在のOT園に入園して半年後くらいに、父の法事のために外出した。
その時、まさか上履きで外出というのもと、外出用の靴を購入した。
もちろんその頃は、歩く事なんて出来ると思ってもいなかった。
車椅子に座って、車椅子のまま乗れる介護タクシーを頼んでの外出。
靴はまあアクセサリーのようなものだった。
正直なことをいうと、この靴が母にとっての最後の靴になると思って買った靴である。
当時の母の体の状態を考えれば、こんなに元気に回復するなんて考えてもみなかった。
あの頃は、靴一足買うにも、感傷的になって涙が流れた。
退院から2年半ほどで、今のように歩けるようになった。
外出の度、靴を履き替えると、母は「この靴を履くと、まるでハイヒールは履いたみたいに感じるのよ~!」とはしゃぐ。
いつも判で押したように、同じ発言。
その靴が、さすがに傷んできたのだ。
考えてみれば、この7月で事故から7年の歳月が流れていたのだ。
傷んでしまっても、不思議はないだろう。
思いがけない幸運に恵まれた7年だったと、感謝である。
靴を選び(何足かを試着、そのたびに私が靴を履き替えさせるのがうれしいらしい。「悪いわね、ウフフ」と口では言うがちっともそんなこと思っちゃいません。とにかくべったり甘えていれば満足な母です)、お持ち帰りのお菓子(パイナップル、ポッキー、五家宝、海苔のおせんべいをチョイス)も買って、無事帰園。
いつもなら玄関まで送ってくるのだが、今日はお昼寝をしたいらしく、「じゃあね!」とベッドから手を振った。
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